「 ENJOY SPORTS 」 「試合を楽しむ」
 とは?

                        
文責 Natsumi Takeda
 「ENJOY SPORTS」 はメンタルトレーニングの基本ですが、簡単なようで奥が深いものです。ロッテ・マリーンズが優勝した次の日に私が、ブログ「監督日誌」に書いた内容と、2006年の年末に、荒川静香選手がNHKの番組の中で話されていた内容を紹介して、「ENJOY SPORTS」の意味を追求したいと思います。

(1)プロ野球 ロッテ・マリーンズのボビー・バレンタイン監督の話から



(2005年10月18日の私のブログ「監督日誌」より)
昨日は、パリーグの優勝決定戦、テレビの前で熱く観戦しました。私もチームスポーツで監督をしている手前、スポーツの優勝シーンは出来る限り見ることにしています。優勝の感動は、見る者に夢や希望、やる気とエネルギーを与えてくれます。「やっぱり優勝っていいなぁ」どんなに苦しいことがあっても、この一瞬で全てが報われる・・・。

1年間戦ってきた末の優勝のシーンには、ドラマや小説を越えた感動があります。何より選手や監督の顔つきが素晴らしい。最後に打ち上げたボールが外野手のグラブに吸い込まれてアウトになった瞬間のロッテナインの笑顔、抱き合う選手コーチ監督・・・。優勝のシーンは何度見ても素晴らしいの一言です。

私は、阪神ファンですが、ロッテのボビー・バレンタイン監督には、1995年から注目し、多くの点で感銘を受けてきました。

私はメンタルトレーニング応用スポーツ心理学研究会でメンタルトレーニングを学んで来ましたが、バレンタイン監督の発想、指導方法は、まさにメンタルトレーニングの原点である、プラス思考、誉めて選手を指導する見本のようなものです。

彼が、1995年にロッテを2位に引き上げながら、広岡GMとの確執のもとで、解任された時に書いた本「1000本ノックを越えて」は、大変勉強になる本でした。

バレンタイン氏の日本球界復帰を心待ちにしていたのですが、たった2年でここまでチームを活性化させて、優勝まで導いたことは素晴らしいの一言です。プレーオフのあり方やソフトバンクの無念さはまた別のところで議論すべきでしょうが、選手のやる気を引き出し、組織を活性化するボビーの手腕はやはり素晴らしいと思います。

2勝の後に2連敗し、流れがソフトバンクに行ってしまった第5戦。その第五戦を前にして、バレンタイン監督が話した言葉をスポーツ新聞から拾ってみました。

(10月17日 サンケイスポーツ)
泣いても笑っても、あと1試合、。だが、ボビーに気負いはない。『エンジョイ・ベースボール』を強調した。「キャンプの時から言っているが、野球は楽しいこと。この時期に(プレー)できるのは、限られたチーム。その楽しさを感じて欲しい。」ナインもそれはわかっている。里崎は「相手に流れが言ったとは思っていないし、勝利の女神はまだどちらにほほえむか決めていないでしょう」・・・・

(10月17日 サンケイスポーツ ネット版)
「プレーオフらしいエキサイティングな試合だった。お客さんがお金を払うだけの、価値のあるゲーム。(小林宏は)すべてを出して投げてくれた。2勝2敗の五分になっただけだ」。悔しくてたまらない。それでもバレンタイン監督は冷静に振り返った。・・・・
もう、敗戦を悔やんでも仕方ない。泣いても笑っても、残り1試合。敵地での最終決戦は、ソフトバンク有利。しかし、大一番を前にして、ボビーに気負いはない。“絶対に勝て”と鼓舞もしない。逆に『エンジョイ・ベースボール』を強調した。


 「キャンプのころから言っているが、野球は楽しいこと。この時期にできるのは、限られたチーム。その楽しさを選手には体全体で感じてほしい」

 最後だから、決戦だから、原点に戻る。野球を始めたころ、夢中でボールを追いかけた。素晴らしき野球。プレッシャーも含めたすべてを受け止めて、笑って野球をやるんだ−。

 「それができないなら、他の仕事を見つけた方がいいよ」

 いまさら、尻をたたくつもりはない。引き分けも許されない一戦。31年ぶりのパ・リーグ制覇は、笑って手に入れる。



(10月17日 スポーツニッポン)
「この時期に野球ができるのは素晴らしいこと。それがわからないものは他の仕事を探した方がいい。」最後の決戦を前にボビーが説いたのは、「エンジョイ」。大きな夢が目の前にあることに変わりはない。

(10月17日 日刊スポーツ)
「プレーオフらしいエキサイティングな野球だった。両チームとも最高のプレーをしていた。キャンプの時から野球は楽しいものだと言い続けてきた。今まさにそれを経験している。それがわからない者は、違う仕事を見つけた方がいい」

どれも同じ内容の記事ですが、本当にプレッシャーがかかる試合ほど、エンジョイベースボールという原点を忘れてはいけないことを、選手に思い出させようとしています。私たちの研究会の教科書の一つ大リーグのメンタルトレーニングの著者、ケンラビザ氏も、大きな試合で有ればあるほど、最後の最後に必要なのは、『プレーを楽しむ余裕、遊び心』だと説いています。研究会の世話人、高妻容一先生も、プレッシャーに打ち克つ最上の方法は、プレーを楽しむことだとおっしゃいます。

大塚高校が全国高校駅伝に初出場した2000年に、高妻先生が、チームに送ってくれたメッセージは、次のようなものでした。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
たっぷり楽しんでいらっしぁいー! 投稿者:高妻容一  投稿日:12月16日(土)19時13分37秒
大塚高校女子駅伝チームのみなさん プラス思考人間の高妻です。プラス思考のみなさんも、すべてがプラス思考で楽しく練習し、大会を楽しみにし、マスコミのインタビューも楽しくて、ご飯もおいしく、ついでの勉強も楽しく過ごしている事だと思います。こんな一生で何度もないチャンスで楽しみ自分のすべてをぶつけ、自分のすべてを出せばこんなすばらしい事はないと思います。みんなかけっこが好き、楽しい、面白い。だからきつい練習もプレッシャーのかかる大会も「楽しむ!面白がる!そして走るのが好き!気持ちいい!うれしい!武田先生の顔が面白い??」すべてがプラス思考、すべてがうまくいき、すべてがOK! 最期に、武田先生の顔が緊張しているのを感じたら、「先生ー、スマイルー!」と入ってあげてください。もしかして、マスコミのインタビューに武田先生の声が震えているかも??それが感じれればみなさんは問題ありませんよ!フロリダにて吉報を待っています(ごめんね!見に行きたいのですが、フロリダの自宅で家族サービスをします)。高妻容一
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 荒川静香さんの 「楽しむ」 2006年 年末のNHKのインタビューより
 
昨年の暮れにあったNHKのスポーツ総集編とフィギュアスケートのゲスト解説で、荒川静香さんが話されていた言葉を紹介します。私自身がテレビで生で見てメモを取ったのですが、録画はしていませんでした。言葉を正確に確認したくて数日後にインターネットで、「荒川静香」「楽しむ」で検索すると、何十人もの人のブログのコメントがヒットしました。多くの人がテレビでこのインタビューを見て感銘を受けたことがわかりました。
インターネットで色々な人が紹介していたものと、私が取ったメモを合わせるような形で、ここにまとめたいと思います。ブログで紹介されていた方のお名前はここには記しませんが、著作権上問題でしたらご指摘ください。

「その競技を楽しむには、その競技に本気で取り組むこと」
本当に楽しむためには、結果を出さないと楽しめない。
結果を出すためには、その競技に本気で取り組まなくてはいけない」
 
荒川さんはトリノ五輪に臨むに当たって、「本当に自分にとってベストの準備をして、自分の力を出し切ることができた」から楽しめたと言っていました。

「楽しむ」っていうことは全てをやり尽くして初めて出来ること。
単にその場を楽しむこととは違う。だから「楽しめることを目指して欲しい」


楽しむとは本気で打ち込むこと。楽しむとか、楽しみたいというのは、簡単なこと。けれども、本当に楽しむことができているのか、できていないのかは、まったく別のこと、なのだそうです。楽しむことができように、いつも全力で頑張ることが大切だということです。


●「『楽しむ』って簡単なようでいて大変なんです。ひとつでも失敗したら、それはもう楽しめないし。だから『楽しむ』為には失敗しないようにいっばい練習したりしなければならないんです。『楽しむ』って本当に難しいけど、その厳しい場面で楽しめた時、素晴らしい演技が出来るんです。」

「五輪を楽しみたい」と口にする選手がいるんですけれども、"最高に仕上げてきた人"が初めて楽しめるんですね」
 「そう思います。楽しむというのは、あはは、って楽しむのではなく、今まで作り上げてきたその状態をこの場で出すことができるから、そこで初めて自分が自分で感激をするということ。そして楽しむということ」

 たくさんの方が色々な形で紹介していましたが、おもなものを上げてみました。

 これはプレッシャーがかかる場面で、その場の雰囲気、緊張感をただ楽しむというのとは全然違うということがわかりますね。
 教師塾の原田隆史先生がいつもおっしゃっておられる言葉に次のようなものがあります。

●プロとアマの違いは、「準備力」の差です。アマチュアは、楽観的に準備して(ここまで鍛える必要はないだろうとか、まあ、どうにかなるだろう、雨は降らないだろう・・・・)、試合当日は、悲観的に過ごすのです。(ああ、この準備も不足していた、この準備も出来ていない・・・どうしよう、どうしよう・・・・)
しかしプロは悲観的に色々予測して(こんなことも起こるかもしれない、こんな準備もしておかなければならない・・・・)、準備をし尽くして、試合当日は楽観的に過ごすのです。

 荒川静香選手は、オリンピックに選ばれるまで、苦しみ抜いて、何度も何度も挫折しながらも、全ての準備をし尽くして、試合当日のリンクに立てたから、その演技の数分間を最高に楽しめたのです。

 彼女のオリンピック金メダルまでの軌跡を、私なりに分析して、昨年のメンタルトレーニング応用スポーツ心理学研究会で発表しましたので、その時発表した内容の一部を以下に紹介いたします。

荒川静香選手 金メダルへの軌跡と考察
トリノオリンピックのフィギュアスケートで金メダルを取った荒川選手の大舞台での「理想的な心理状態」の作り方について考察していきたいと思います。
★荒川選手金メダルの分析
@「コーチの選択」昨年12月、多くの五輪金メダリストを育ててきたタチアナ・タラソワコーチとの3シーズンにわたるコンビを解消し、世界で今最も有名で人気のある振り付け師であるモロゾフコーチにコーチを依頼。実際に滑って教えてくれる若いコーチで、採点法の事を一番わかっているコーチだから。スケート協会の言いなりではなく、今必要なことを優先させたいという強い意志を貫く。
@「集中の仕方」 コントロールできないもの(ライバルの演技)を意識からはずし、コントロールできるもの(自分の演技、自分がやってきたことを出す)に集中して力を発揮した。
A「無心」8年かけてオリンピックでのメダルを追い求めてきたはず。しかし、本番が近づくにつれて、逆に「勝つ」とか「メダル」とか「狙う」という意識を捨て、平常心、無心を心がける。→結果を気にしない。今やれることに集中する
B「自分らしさ。」新採点法に対する対策は万全に立ててきたが、最後の最後には、人の目(審判・採点)を気にしすぎず、自分らしさを一番大事にする。先月上旬に「一番好きな曲で滑りたい」とコーチに訴えて、フリー演技の曲を世界選手権で優勝したときの「トゥーランドット」に変更し、新採点法では得点にならない「イナバウアー」を「自分らしさをだすために」あえてプログラムに組み込んだ。
C「挑戦」ミスを犯す危険を冒しても高得点に挑戦する攻めのプログラムを組んでいた。
疲れが出てくる後半にあえて難易度の高い技を組み込んでいた。3サルコウ+2トウループ+2ループ
D「挑戦の中の冷静さ」冒頭の連続ジャンプ。
荒川選手「ランディングがあまり完璧でなかったので、とっさの判断で3回転2回転にしました。」傷を最小限にとどめ後半のすばらしい演技につなげていった。

上記の分析の元となったインタビュー記事を紹介していきます。

NHKのインタビューから:
荒川選手:「メダルが取れたらいいなぁと、ちらっとは思ったんですが、欲をかいちゃいけないと思っていました。」「今日は何も考えず無心で滑ろうと思っていました。」

フリーの前日の練習会場で、メダル候補のコーエン選手(アメリカ)とスルツカヤ選手は、いつもは周りを気にしないのに、荒川選手をちらちら見て気にしていた。周囲に気を取られていた。荒川選手は自分の練習に集中してジャンプを成功させていた。

フリー演技の当日。
荒川選手の1人前の演技者・金メダル候補のサーシャ・コーエンがジャンプで転倒。
演技終了後のコーエン選手のコメント:
「直前の練習で何度も失敗したので不安になった。」

コーエン転倒で会場がどよめいていた。気になりましたか?
荒川静香:「歓声も聞かないように防音のヘッドフォンをしていた。前の人の演技もまったく見なかった。」
民放の番組から
松岡修三のインタビュー:
松岡「サーシャ・コーエンが前でどんどん崩れているのを見ていましたか?」
荒川:「まったく見てなかったです。見ちゃうとやっぱり何かを狙っちゃったり、やらなきゃとか考えて、余計に力んでしまったり、良くないと思ったので・・。もう自分の力を出すことだけを考えていましたので、わざと見ないようにしていました。」

松岡:「荒川さんは元々は、今日はジャンプでミスするんじゃないかとか考えちゃうタイプだったでしょう?」
荒川:「今日は不思議と、ずっと朝からリラックスしてたんです。何ででしょうね。この試合に入ってきてから、そう変に緊張することもなく、普段通りに過ごして、今日も暇だったので、散歩しながらモールの方にお茶しに行ってアイスクリーム食べていました。」
松岡:「何でそんなにリラックス出来たんでしょうね?」
荒川:「自分の力を出すためには、何かを狙ったりしちゃいけない、普段通りにすごそうと思っていました。」

別のインタビューから
――ニコライ・モロゾフコーチからはどんな指示がありましたか?
荒川: スパイラルを3秒間保つこと。何でもいいから自分の好きな言葉を、3秒間唱えろと言われました。
――それでなんて言ってたんですか?
荒川: ワンアイスクリーム。トゥーアイスクリーム。スリーアイスクリーム(笑)

 「大リーグのメンタルトレーニング」の著者:ケン・ラビザ氏は、大きな試合になればなるほど、長い時間をかけて大変な準備をしてきているのだから、あえてその大試合が近づいてきたときには、結果を意識しすぎずに、遊び心を大切にしなさいと言われています。
 『大塚高校駅伝チームの試合当日のキーワード』を最後に紹介します。

『 心にゆとりを持とう。
 我々は今日まで、試合で結果を出すために最大限の努力を重ねてきた。
 試合で勝ちたくない者など誰もいない。
 だからこそ、試合当日は、あえて結果にこだわることはない
 走る前から終わった後の結果を考えるのではなく 
 今自分は何をすべきかだけを考えよう。
 そうすれば結果は、あとから必ずついてくるものだ。 今日一日試合を楽しもう。』 
  私がこのキーワードを作ったのは、1997年です。高妻先生やケン・ラビザ氏の話から考えて作ったものです。昨年の荒川静香さんのオリンピックでのインタビューを聞いて共通点を多く感じました。

「メダルが取れたらいいなぁと、ちらっとは思ったんですが、欲をかいちゃいけないと思っていました。」
自分の力を出すためには、何かを狙ったりしちゃいけない、普段通りに過ごそう。
ワンアイスクリーム。トゥーアイスクリーム。スリーアイスクリーム
 
 ここまで来て、彼女がメダルを狙っていないはずはありません。だからこそ、今日一日は、逆にメダルを意識せずに、無心で、自分らしく、普段通りに過ごそうと・・・。
 
 自然体と遊び心

 今回の金メダルは荒川選手の過去の経験に裏打ちされた、心・技・体の勝利だったと思います。

 新庄剛志選手の 「楽しむ」 
 
荒川静香選 金メダルへの軌跡と考察