ここで紹介する内容は、宮崎日日新聞2002年7月3日―7月13日のスポーツ欄に掲載されたものであり、HPへ記載することの許可をもらっています。
スポーツ選手のメンタル面強化
【連載1】スポーツ科学
この連載を依頼された時、「宮崎は国体などにおいても弱い県のひとつです。低迷する宮崎の競技力向上をはかりたい」というお話を聞きました。そこで、この連載では、どうしたら試合で勝つ可能性が高まるのか? また、どうしたら選手がもっとうまくなるのかという「競技力向上」を目的に、スポーツ心理学という観点から、スポーツ選手のメンタル面強化の話をしていきたいと思います。
最近のスポーツは、試合に勝つという競技力向上を目的にした時、スポーツ科学をいかにして応用するかが重要な要因になってきました。2002年、国立スポーツ科学センターが、日本のオリンピックでのメダル獲得を大きな目標として開所しました。ここでも、世界に勝つためには、海外を手本にしてスポーツ科学を応用することが必要だとされています。
つまり、日本が世界に勝てないのは、科学的なトレーニングや科学的な指導法を導入していないからだと言われています。また、宮崎が国体で勝てないのは、なぜなのでしょうか? もしかして、同じ原因が宮崎のスポーツ界にもあるかもしれません。そこで、この連載では、「心・技・体」と言われる言葉の「心(メンタル面)」を取り上げて、スポーツ心理学というスポーツ科学の観点から話をすすめていくことにします。
日本オリンピック委員会(JOC)の心理班では、1985年よりメンタル面強化のプロジェクトを作り、日本が世界で勝つためにやるべき事を研究してきました。その中で、オリンピック選手への質問から、オリンピックで重要な順から「心・技・体」だという回答がありました。
しかし、練習に費やす時間は、「技・体・心」の順番であり、「技・体」に関するトレーニングが練習時間のほとんどを占めていると回答がありました。つまり、オリンピックという大舞台(試合)で一番重要だと選手が感じている「心(メンタル面)」に関して、ほとんどトレーニングをしていなかったという事実が浮き彫りにされました。
【連載2】 心・技・体
スポーツにおける「心・技・体」とは、どんなことを意味するのでしょうか?この連載における「心」は、メンタル面・心理面・精神力・気持ちの強さ・ハートが強いなどの言葉で表現されることがらです。また、「技」は、技術(テクニック)・技能(スキル)・作戦・戦術などの言葉で表現できます。さらに、「体」は、体力・身体・筋力・体格などの言葉で表現できると思います。
日本のスポーツ界において、「技・体」の指導や練習は、オーバーワークになるくらい時間を費やしています。しかし、外国と比較した時、日本の選手の方が練習時間は長いのに、オリンピックなどでは勝てないのです。
例えば、アトランタオリンピックでは、アメリカが101個のメダルを獲得、日本は14個しか獲得していない事実をご存知でしょうか? 練習時間の短いアメリカがなぜ、これほどまでにメダルを獲得しているのでしょうか? そこには、オリンピックトレーニングセンターを中心としたスポーツ科学の応用があると言われています。
スポーツ科学を取り入れるとなぜ試合で勝てるようになるのでしょうか? その答えは、「質の高い練習で選手がより早く合理的に上達する」とか「試合で勝つ可能性を高める方法がある」ということがいえると思います。短い時間でより効率的に効果を出す、試合で勝つ可能性を追求した方法を使うなどの合理的・論理的な考えが、試合で勝つということにつながるのだと考えられます。
日本では、伝統的に練習を多くやればうまくなるという考え方がされてきました。選手にきつい練習をさせ、追い込めば、また練習を多くやれば精神力はつくなどという古い考え方が科学的なメンタル面のトレーニングを、海外より遅れさせたのです。確かに、この方法でもメンタル面が強くなった選手もいたでしょうが、落ちこぼれていった選手の方が多かったのも事実です。
【連載3】歴史的背景
メンタル面を科学的にトレーニングするという考え方は、旧ソビエトが社会主義国家のもと、オリンピックで勝て(メダルを獲得)という命令が下り、多くの研究者やスポーツ関係者が、勝つための方法を見つけ出したことからだという報告があります。
つまり、オリンピックで勝つという目的のもとに、メンタル面強化のトレーニングが研究され、オリンピックの大舞台で応用し、実践と研究を繰り返し、より効果的なメンタルトレーニングというものが出来上がってきました。
1976(昭和51)年のモントリオールオリンピックでの旧ソビエトや旧東ドイツの素晴らしい成果を見て、アメリカなどの西洋諸国もメンタル面強化に取り組み始めました。84(同59)年のロサンゼルスオリンピックでは、アメリカがチームにメンタルトレーニングを導入し、素晴らしい成果を挙げたことが、日本にもメンタルトレーニングを導入するきっかけになりました。
日本オリンピック委員会(JOC)の心理班による「メンタルマネジメント研究」プロジェクトが85(同60)年に始まり、日本におけるメンタル面強化の研究や実践に取り組むようになりました。当時は、88(同63)年のソウルオリンピックでのメダル獲得を目的に研究や実践が行われたのですが、日本のスポーツ界にあるいろんな問題から、メンタル面強化の考え方が受け入れられませんでした。
日本では「根性・精神力・気合・スパルタ教育」などの言葉が示すように、コーチたちは、メンタル面の重要性は認識していたにもかかわらず、どうすればメンタル面強化ができるのかが分からず、昔ながらの、練習を多くするとか、追い込む練習、スパルタ練習をしてきました。
また、メンタル面が弱いという責任を選手に押しつけ、コーチの「おまえは精神力がない、どうして力を発揮できないんだ、もっと集中しろ、気合を入れろ、やる気を出せ、根性をだせ」という言葉だけの指示だけが響いていました。
【連載4】なぜ、実力を発揮できないのか?
選手やコーチのみなさんは、「うちのチームのほうが強いのになぜ負けたのか?」「あんなチームにどうして負けたのだろうか?」「どうして実力を発揮できないのだろうか?」「せっかく、技術や体力もついたのに、大切な試合であがって負けた」などの経験はありませんか。
毎日の練習で「技・体」の面の強化はできて、うまくなったし強くなった、しかし大事な試合であがって(プレッシャー)負けた。このようにメンタル面の理由で負けたということは、心・技・体の「心」が弱いから負けたということになります。
一般的には、チームや選手が「弱いとか強い」という場合に、ほとんどの人々が「技・体」の面を見て、弱い・強いと決めつけているように感じます。誰が見ても負けるはずのないチームや選手に負けることは、スポーツの世界では当たり前のように起こります。
そのようなことが起こった後の選手のコメントには、「調子が悪かった・気持ちが足りませんでした・精神力が原因です、どうして負けたかわかりません・僕らの方が強いんですが試合では負けました」などと、「言い訳」のコメントが聞こえてきます。コーチたちも「実力を発揮できない選手に対して、腹が立つから怒る」というパターンになります。
つまり、強いとは「心・技・体」すべてのバランスがあってこそ強いのであり、このバランスが取れていなくて試合で負ける場合は、やはり「弱い」のです。この弱さを克服するには、練習するしかありません。
しかし、「技・体」の練習だけをしても、練習の量を増やしても、また同じことの繰り返しです。「心」の練習や準備、つまりメンタル面強化のトレーニングをすることが、強いチームや選手になる(育てる)大切な準備になります。
あなた(コーチ)は、どんなメンタル面強化を実施していますか? 次回からは、具体的なメンタル面強化のメンタルトレーニングを紹介していきます。
【連載5】一流選手の条件(心理的スキル)
スポーツ心理学の研究から、1流選手と2・3流選手の違いを分析し、1流選手はなぜすごいのかを詳しく調べてみました。そうすると面白いことがわかりました。
(1)1流選手ほど、大きな夢を持ち、その夢を達成するためのプランを立て、そのプランを実行し、夢を達成するための努力をしているのです。つまり、自分のやりたいことややるべきことを理解して毎日の練習や生活を過ごしていたのです。このことは、自分自身で「やる気を高める」ことができていることになり、他の選手と同じ3時間の練習が、やる気のある、目標やプランを持った「質の高い練習」になっていたのです。
(2)試合になればほとんどの選手が緊張やプレッシャーを感じます。1流選手は、自分の気持ちをコントロールし、緊張やプレッシャーを味方につける方法を知っていました。
(3)1流選手ほど、練習や試合に対する心の準備として、イメージを活用して、より鮮明でリアルなイメージトレーニングをしていたのです。
(4)1流選手は、試合の大事な場面での集中力の高め方を知っています。また、練習においても集中してトレーニングをすることができるために「質の高い・中味の濃い練習」をすることができます。つまり、人よりうまくなるコツ、人より試合でいいプレーやいい結果を出すコツを知っているわけです。
(5)1流選手ほど、「素直だ」という話しを良く聞きます。これは、彼らが「プラス思考(ポジティブシンキング)」であるために、コーチや人の言うことを良く聞き、それをアドバイスにして、自分をより高めていることを意味します。
(6)1流選手ほど、自分や人に対する言葉や声がけがプラス方向なのです。これが自分への良い暗示となり、気持ちの切り替えがいうまく、それが良いプレーや結果につながります。
(7)1流選手ほど、試合に対する「心の準備」をしているために、より試合で勝つ可能性を高めているのです。これまでに挙げた7つのことに対しての技能(スキル)を心理的スキルと言い、これをトレーニングする事がメンタル面強化の基本となります。
【連載6】心理的スキルとは?
前回、1流選手の条件を紹介しました。その1流選手ほど持っている条件(技能)は、彼らが練習や試合で活用している「心理的スキル」というものです。
メンタルトレーニングは、専門用語で「心理的スキルトレーニング」と言います。これは、前回紹介しました1流選手が持っている条件の、彼らが持っている技能(スキル)の中でも「心理的スキル」を「トレーニング」するという考え方です。メンタルトレーニンは、下記に示す7つの心理的スキルをトレーニングすることを意味します。
これは@目標設定AリラクゼーションBイメージC集中力Dプラス思考EセルフトークF試合に対する心理的準備などです。これらの心理的スキルは、スポーツ心理学の研究から、科学的に分析され、またオリンピックなどの試合で試され、効果があると認められたものを選手に指導するというものです。
最近は、この心理的スキルを段階的に・系統的にプログラム化して、より効果をあげるという方法が盛んに行われています。私たちは、1994年から、国際メンタルトレーニング学会と国際応用スポーツ心理学会との密接な関係を保ちながら、世界的な流れの中で、日本のメンタルトレーニングのレベルアップを目的に、「メンタルトレーニング・応用スポーツ心理学研究会」を作りました。
この研究会では、メンタルトレーニングを選手に指導する段階をプログラム化し、より効果をあげようと次のような手順を作り指導にあたっています。それは@紹介編A初級編B中級編C上級編Dコーチ編E親編F専門家育成編というもので、これを段階的時間をかけて「トレーニング・準備」していくというプログラムです。次回からは、競技力向上を目的としたメンタルトレーニングの初級編プログラムを少しづつ紹介していきます。
【連載7】メンタル面の強さをチェックする
メンタルトレーニングを始める前に、私たちは必ず選手のメンタル面の強さをチェックするために、スポーツ心理テストを使い、科学的に選手のメンタル面を分析します。
例えば、心理的競技能力検査(DIPCA.3)というスポーツ心理テストを使い、選手のメンタル面の強さ、やる気(忍耐力・闘争心・自己実現意欲・勝利志向性)、メンタル面が安定して試合で実力を発揮できるか(セルフコントロール・リラックス・集中力)、自信(決断力・自信)、イメージ能力や作戦能力(判断力・予測力)、協調性などを分析し、今後どのようなメンタル面強化をすればいいのかの情報とします。
また、体協競技意欲検査(TSMI)というスポーツ心理テストでは、選手のやる気を怩ノ分類してチェックできます。他にも試合前や試合中の心理状態、チームワークやチームに対する思い入れ、さらにはコーチと選手の人間関係などもチェックできるスポーツ心理テストがあります。
今までは、「この選手はこうだ! こんな選手だ! 精神力が弱い」などというコーチの思い込み程度のレベルでしか選手を分析していませんでした。また、無知なコーチは、性格検査や血液判定などで選手をみていたのです。
メンタル面の強さは、性格とは関係なく、強化(トレーニング)すれば強くなるという考え方です。まして、血液判定など論外です。自分の経験と勘で選手を判定し、もしかして素晴らしい素質を持って選手をだめにしていたことも考えられます。
もちろん、スポーツ心理テストですべてが分析できるわけではありませんが、コーチの経験と勘に加えて、科学的なデータをも使い、チームや選手のデータベースを作り、そのデータをうまく活用していく時代がきたと考えてください。「そんなことめんどくさい」と思いの方も多いと思います。あなたがどれだけ、うまくなりたい(上達させたい)のか、試合で勝ちたいのかという思いがあるかないかが、これからのあなたの行動を決めるでしょう。
【連載8】やる気を高める方法(1)
前回紹介しましたスポーツ心理テストで選手のやる気をチェックし、このチームや選手をどのようにしてやる気を高めたいのかと思えば、次のような方法を試してみませんか? このやる気を高める目的の心理的スキルを「目標設定」と言います。つまり、自分の夢ややりたいことを目標として決めることです。ここでは、紙面の関係上すべてを紹介することはできませんので、ほんの一部を簡単に紹介します。次の目標を紙に書いてみましょう。
人生における夢・30年後の目標・10年後・5年後・3年後・2年後・1年後・半年後・今月・今週・今日・今の目標を順番に書いてください。次に、あなたが今やっているスポーツの夢・30年後の目標・10年後・5年後・3年後・2年後・1年後・半年後・今月・今週・今日・今の目標を順番に書いてください。たぶん、多くの人が「結果目標」を書くと思います。
今度は、その結果目標を見ながら「プロセス目標」(その結果を達成するためのプラン)を書いてみましょう。例えば、人生の夢が「金持ちになりたい」と書いたとしたら、「いくらぐらいの金持ち」「いつまでに」「どうやってその金額をもうけるのか」「それが現実的か非現実的か」を確認してください。
そうすればあなたの夢が本当に実現するのか、その「目標設定」は妥当なのかが明確になります。この夢が「オリンピックの金メダル獲得」ならば、何年後のオリンピックで金メダルを取るのかを決め、その1年前までには世界選手権で上位、2年前までには日本代表・日本チャンピオン、3年前までには日本で上位、4年前までには高校チャンピオンでジュニア日本代表、今年中に全国高校総体(インターハイ)上位入賞など、具体的にやるべきことが見えてくるはずです。
このように段階的に目標やプランを立てていくのが「目標設定」という心理的スキルです。次回はこの続きを紹介します。
【連載9】やる気を高める方法(2)
前回に引き続き、やる気を高める心理的スキルの目標設定の具体的な方法を紹介します。
前回は、人生という「長期での目標」を考え、夢をどうして達成するかのプランまでを立てました。今回は、「中期の目標」として、この1年をどうトレーニングするのかを紙に書いて見ましょう。
最初に、今年の一番大切な試合が何月か確認してください。それでは、その試合までのあたなのチームのトレーニングスケジュールを書いてください。次に、そのチームとしてのトレーニングスケジュールを見ながら、あなた自身の「秘密」のトレーニングスケジュールを書いてください。この秘密のトレーニングとは、人とは違うあなただけの特別なトレーニングです。
人の見ていないところで、あなたはどんな努力をしていますか、またこれからやるべきですか、やりたいですか? これも具体的に、今月はこれとこれをする、来月はこれ、その次の月はこれをやる、そうすればこれだけうまくなり、今年の大事な試合では、これくらい勝つ可能性をたかめることができると「ある程度の計算」ができるようにするのです。
次に、今週のスケジュールを紙に書いて見ましょう。今週、あなたは何をしたいのですか、何をしたらどうなるのですか? 今週、1週間でどれだけうまくなれますか? 毎日のスケジュールを具体的に書いて、チームでの練習と自分の秘密の練習をうまく統合して、練習の質を2倍3倍にして、上達も2倍3倍にすれば、ますます試合で勝つ可能性が高まると思いませんか?
最後に、毎日の練習日誌をつけることで、あなたの目標への達成度を毎日確認しましょう。練習日誌は、練習への「予習・復習」となり、ひとつのイメージトレーニングです。今日の反省と明日やるべきことをイメージしながら書くことで、練習へのやる気や質を高めることができます。1流選手にとって、必要なトレーニングが練習日誌だと理解してください。
【連載10】プレッシャーに打ち勝つ方法(1)
大事な試合において、実力を発揮できない原因に「プレッシャー」があげられます。このプレッシャーをうまく処理する方法として「セルフコントロール」のスキルがあります。
セルフコントロールとは、プレッシャーのかかる場面などで、自分の気持ちや感情をうまくコントロール(処理)する方法です。ここでは、「リラクゼーション」という、気持を落ち着かせ、冷静な平常心でプレーができるようにする心理的スキルがあります。
具体的には、(1)練習や試合前に、静かな音楽を流します。これは音楽を使用した「呼吸法」と位置づけています。(2)呼吸と手の動作をコントロールする目的の呼吸法を行います。(3)漸進的筋弛緩法という、筋肉を緊張させてからリラックスへ持っていく方法を右手・左手・両手・右足・左足・両足・・と順番に身体の各部をリラックさせ、同時に気持ちもリラックスさせます。
(4)次に簡素化した自律訓練法を使い、「手が温かーい」とか「ひたいが涼しい」などの自己暗示をかけながらリラックスへもっていく方法、(5)メディテーション(瞑想)を約3−5分おこない、気持ちをリラックスすると同時に集中力を高めます。
このリラクゼーションのプログラムを毎日の練習前に「メンタル面強化のトレーニング」として実施します。ここでは詳しく紹介できませんので、ベースボールマガジン社からでている「実践メンタルトレーニング」のビデオや「明日から使えるメンタルトレーニング」という本を参考にしてください。
このプログラムでは、何をどうすればプレッシャーのかかる場面で、リラックスできるのかという方法を学び、それがいつでもどこでも使えるように、毎日の練習で「トレーニング」していくというものです。いかにして自分の気持ちをコントロールすかが、スポーツのおもしろさであり、難しさだと思います。
【連載11】プレッシャーに打ち勝つ方法(2)
この原稿を書いている時、数年前からメンタルトレーニングを導入している沖縄の中部商業高校が甲子園出場を決めたと報告がありました。今年の宮崎は、どこが出るのでしょうか?(この記事が載る頃はもう甲子園大会が始まっていると思います)
前回までの連載に引き続き話しを進めます。プレッシャーに打ち勝つ、セルフコントロールの方法にひとつに、サイキングアップという心理的スキルがあります。サイキングアップとは、気持ちをノセルという心理的なウォーミングアップというものです。日本では身体的なウォーミングアップは、誰でもやるのですが、練習や試合への気持ちの準備としての、やる気を高める、練習や試合をやるという気持ちの切り替え、開き直り、また好きなスポーツを楽しむための気持ちのノリを作るという心理的なウォーミングアップ、つまりサイキングアップをやりません。選手たちがすばらしいプレーをする時は、必ず心理的にもいい状態であり、ガッツポーズが出るような気持ちのノリがあるはずです。この最高のプレーが出るような気持ちのノリを作るための「トレーニング」として、サイキングアップという心理的スキルをやるわけです。連載10で紹介しましたリラクゼーションと今回のサイキングアップを組み合わせて、選手のセルフコントロール能力を高めましょうというアイディアです。毎日の練習の前に最高の気持ちの状態を作ることが、その日の練習の「質」を高めます。1日3時間の練習が、やる気のない、集中していない、なんとなくやらされている気持ちの練習と比べると、やる気のある練習は、何倍もの質や内容になることはみなさんも理解していただけると思います。これは受験勉強でも同じですし、会社の労働力を高める点でも同じだと思います。どうせやるなら、質の高い中身の濃い練習のほうがいいに決まっています。それが1年365日となれば、1年後の選手の上達、技術や体力の伸びは段違いなものになると思いませんか?つまり、セルフコントロールの方法を学び、それを毎日トレーニングとしてやれば、プレッシャーに打ち勝つだけでなく、競技力向上という点において大きな力となるはずです。現在、東海大学では、宮崎出身の井上(柔道)や釘崎(サッカー)選手が、大学の授業やクラブでのメンタルトレーニングで、競技力向上をしてくれています。彼ら宮崎県出身者のよりいっそうの活躍を期待しています。
【連載12】選手が最高能力を発揮する心理状態
選手が最高能力を発揮する心理状態を、理想的な心理状態・ゾーン・フロー・火事場の馬鹿力という表現をします。つまり、スポーツ選手がいいプレーや新記録などを達成する時は、ある種の心理状態になっているといわれます。その心理状態は、緊張はしているのだがいい緊張感で、リラックスはしているのだがリラックスしすぎていない適度(理想的)な心理状態だといわれています。あるテレビ番組で「ゾーン」というものがあります。このタイトルの意味するものが、スポーツ選手がすばらしいプレーをする時の、またすばらしい選手になるための条件です。オリンピックで金メダルをとるようなトップレベルの選手ほど、この理想的な心理状態をすぐ作れると言われています。だからこそコンスタントに自分の実力を発揮し、いつでもいい成績を残せるのです。たとえば、大リーグで活躍するイチロー選手は、ベンチからネクスト・バッターズ・サークルまで、いつも同じように歩いて、そこでの動作、打席までの歩き方から打席に入り、バットをぐるりと回す動作までを、打席で集中するために大切な時間、打つための重要な準備の時間だという表現をしています。これは、集中力のところでお話するとは思いますが、彼が最高能力(実力)を発揮するための心理状態へ入るための手順である、パフォーマンス・ルーティーンだということができます。一流選手ほど、自分がコンスタントに実力を発揮するための「方法・手順・プログラム」(パフォーマンス・ルーティーン)を持っています。ただ、ある選手はそれを意識し、ある選手は無意識で、ある選手は何にも考えなく気にしないで自然に、ある選手は意識してトレーニングを積んで、またある選手はそんなことは一切考えたこともないし、気づかないで選手を終わるのです。つまり、この理想的な心理状態を作り最高能力を発揮する目的で、メンタル面強化のメンタルトレーニングを実施しするのです。宮崎県出身の黒木投手(ロッテ)も、このパフォーマンス・ルーティーンをピッチングの中に取り入れて、活躍をしてくれている選手の一人です。
【連載13】イメージトレーニング(1)
最近は、イメージトレーニングという言葉が一般の人々まで理解していただけるようになりました。これは、専門用語でビジュアライゼーション(Visualization)とかイメージュリー(Imagery)と言われ、イメージを使ってトレーニングするということから和製英語で「イメージトレーニング」ができたと考えられます。しかし、この言葉は、日本語の中にすでに定着しているために使いますが、イメージという心理的スキルをトレーニングするという意味で理解してください。具体的には、頭の中で何かを思い浮かべる(心像・想定・イメージ)することなのですが、一般の方は目を閉じてイメージすることがイメージトレーニングだという見解の方が多いようです。つまり身体を使わないトレーニングだという考え方のようです。しかし、実際には身体を使いながら行うトレーニングなのです。たとえば、野球部に入部した1年生が球拾いをよくさせられます。ここで1年生は、球拾いという作業をやりながら、先輩達のプレーを見ることができます。つまり、自分がやること、やりたいことを「見る」という第一段階があり、素質のある選手は先輩達のプレーを見ながら、「そうか、あの場面ではこうやるのだな」などと考え、それをマネしようとします。素質のない選手は、「野球部に入ったのに、球拾いばかりと文句を言う」でしょう。ここで、あなたにお聞きします。「ラクロスのスローイングをイメージし、そのプレーを実際にやってみてください」今、これができた方はラクロスというスポーツを知っており、そのプレーを見たことがあるかやったことがあるはずです。しかし、できなかった方は、ラクロスを知らない、そのプレーを見たことがないために、プレーが実際にできなかったのです。つまり、見たこともやったこともない、知らないことはイメージできないし、プレーすることもできないことがわかります。
【連載14】イメージトレーニング(2)
前回お話したように、イメージとレーングの第一段階は、「見ること」、「知ること」からは入ります。野球を始めとするスポーツの世界で初心者に「球拾い」という作業をやらせ、先輩達のプレーを見る機会を与えるということは、ちゃんとしたトレーニングのひとつになっていたと理解してください。ただし、ここまで考えている指導者や選手は、ほとんどいなかったという事実もあります。伝統的なトレーニングの中に、これをやるといいという形で入っていたと考えられます。次に、「まねをする」という動作があります。たとえば、体育の時間に、新しいことを学ぶ時は、必ず先生(またはうまい人)がデモンストレーションをして、それを見てから、まねをして技を身につけていきます。最初は、デモンストレーションをやった人の動きを第三者的に見て(人がやっている動作を思い出すというイメージをしながら)、しかし自分でやる時は自分がやっているイメージ(目線が自分でやっている目線)となります。つまり、スキーを学ぶ時に、インストラクターのあとを金魚の糞みたいに、ついていく光景があります。これは、教えてくれる人と同じ目線(まねをして滑るイメージ)でやるということで、これはかなり効果が期待できるやり方です。初心者が、新しい技を学ぶ時に(または教える時に)、どの角度から見てマネをするかで、イメージの作り方がかわってくるからです。スポーツ心理学という学問的背景から見ると、イメージトレーニングの基本は、リラクゼーションにあります。これは、リラックスした状態にしてイメージトレーニングをやらなければ、その効果が半減してしまうという科学的根拠があるからです。コーチがただ言葉で、また怒りながら「イメージしろ」、「思い出せよ」、「テレビを見てイメージしろ」などと指導しても、効果があまりないということです。この連載10で紹介しました、リラクゼーションを実施してから、イメージトレーニングをやる方が効果的です。
【連載15】イメージトレーニング(3)
今回もイメージトレーニングの紹介をしますが、紙面の関係上この連載ではメンタルトレーニングの100分の1程度しかここでは紹介できないというくやしさがあります。この連載では、こんなものがありますよという程度しか説明しませんので、ご了承ください。
さて、イメージトレーニングには、大きく分けて2つのやり方があると考えています。
これは、(1)初心者用と(2)上級者用のイメージトレーニングです。その違いはなにかと言うと、(1)初心者用は、連載13・14で紹介した、新しい技術を身につけるために、行うイメージトレーニングの方法があります。一方、(2)上級者用は、すでに身につけた技術や体力を、試合で発揮するためのイメージトレーニングの方法があります。これは、次の試合をイメージして、この場面ではこうしてこうする、もし、こんな予期しないことが起こったらこうする、試合前にこうしてこうすれば自分の実力が発揮できるという、シミュレーション(模擬体験)をするのです。具体的には、試合当日は、朝起きてセルフコンディショニングという朝の体操や散歩をして、気持ちよくおきて、ゆっくりとした時間散歩して、おいしく朝ご飯を食べる、試合場へは音楽を聴きながら気持ちをコントロールしながら移動、更衣室では軽快な音楽で気持ちをノセル、着替えたら試合場の散歩をして心の準備、心のストレッチ・身体のストレッチ・心のウォーミングアップ・身体のウォーミングアップで準備、試合直前には、集中力を高める心理的スキルをして、万全の状態で試合がスタートというようなその日の流れをイメージしたり、試合半ばで負けていればこうする、勝っていればこうするなどプランを立てて、それを実行するということをすることも効果的なイメージトレーニングです。また、戦術や作戦のミーティングは、まさにイメージです。これをトレーニングにこれは1日24時間を活用できる利点があります。
【連載16】集中力(1)
日本オリンピック委員会の心理班が、各種目ここ4年間でインターハイや全中のベスト16に入賞したチームの監督998名に調査をしました。その時、練習において一番大切な真理的スキルは何ですか?という質問で一番多かったのが「集中力」でした。しかし、その後の質問で、実際に一番重要だと考える集中力のトレーニングはどうしていますか?という質問から、そのトレーニングの方法がわからないために、何もしていないという事実が明確になりました。監督達は、言葉で「集中して練習するんだ」、「集中力が大事だ」、「気合を入れて練習しろ」などと怒鳴ることは毎日のようにしていても、選手達には「おまえは集中力がたらん」、「もっと集中しろ」と集中力のなさを選手の責任にしていたのです。つまり、こうしたら集中力が高まるからこうしなさい、これをやることで集中力が高まるよという指導がなされていなかったのです。一部の指導者は、「常に、試合を意識させて、緊張感のある状態で連取させています」と言いながら、実は怒り怒鳴りまくって、違う意味での緊張感の中で集中させていたという事実もありました。
スポーツ心理学の理論から話すと、かなり複雑で難しい話をしなければならないので、ここでは、簡単にこのような方法が現場ではすぐ使えますということを紹介します。たとえば、大リーグで活躍するイチロー選手は、ベンチからネクスト・バッターズ・サークルまでいつも同じように歩いて、そこでの動作、打席までの歩き方から打席に入り、バットをぐるりと回す動作までを、打席で「集中」するために大切な時間、打つための重要な準備の時間だという表現をしています。これは、「パフォーマンスルーティーン」という集中力を高めたり、気持ちを切り替えたり、自分のリズムを取るための心理的テクニックです。
イチロー選手の形ではなく、心の中(考え方)をまねしてみることは、効果的でしょう。
【連載17】集中力(2)
集中力を高めるには、フォーカルポイントという心理的なテクニックもよく使われます。
これは、大リーグで活躍する長谷川滋利投手(シアトルマリナーズ)が活用しているもので、試合場のある一点(場所)を自分で決めて、そこを見ると「集中力が高まる」、「集中力が回復する」、「集中力を高めるための深呼吸を思い出す」など、気持ちを切り替えるきっかけとなる点を見ることをするということです。グランドでやるスポーツなら、胸を張り上を向いて「空を見上げる」という動作でもいいでしょう。この動作の中には、胸を張り自信がある姿勢や態度をとる、頭を上げ上を向くことで頭の中をプラス思考にする、ついでに深呼吸をして心を落ち着かせ、吐く息に意識を集中して集中力を高める、また「よーし!いくぞー!気合入れていこー!」などとセルフトーク(自分で自分に話し掛ける)し、声を出すことで気持ちを切り替えたり、気持ちをノセルというメンタル的なテクニックを使っていることが含まれます。このテクニックを使いこなすには、このような動作が、このような考え方が集中力を高め、試合で実力を発揮できるための方法ですよということを理解しておかなければなりませんし、これを毎日の練習で「集中力のトレーニング」としてその心理的スキルを洗練させておくことが必要になります。このようにしてメンタル面強化をするトレーニングをすることがメンタルトレーニング(心理的スキルトレーニング)です。特に、毎日の練習前や後にリラクゼーションをやることが集中力を高める基礎トレーニングとなります。練習前の20分を時間がないとかもったいないと思うか、これもトレーニングだから時間を取ってメンタル面強化のトレーニングとしてやるという監督の考え方ひとつです。この方法については、ベースボールマガジン社より、「実践メンタルトレーニング」というビデオが出ていますので参考にしてください。
【連載18】プラス思考・ポジティブシンキング(1)
プラス思考とは、考え方をポジティブ(プラス方向)へしましょうという簡単な理論です。しかし、これを実践することが非常に難しいのです。スポーツにおいて、プレッシャーが、見えない重圧、見えない金縛りとなって選手の実力発揮に邪魔をしてしまいます。プレッシャーは、結果を考える事から、不安・心配・気になる・考える・悩む・迷う・あせる・恐怖を感じ、ある種の圧迫感を感じたりして、弱気、守りの気持、逃げの気持なっていくマイナス思考です。次に、なぜ、プレッシャーは起こるのか?を考えてみると、(1)自分の考えや気持の持ち方でプレッシャーが起こる。(2)プレッシャーは、自分の考えで作るものである。同じ状況でプレッシャーを感じる人と感じない人がいることから、その人の考え方次第でプレッシャーが敵にも味方にもなる。(3)試合の勝敗や記録など、「結果」を考えたり、気にすると、心理的な圧迫感や重圧感に襲われるということが考えられます。結局、プレッシャーがかかると、「不安・心配・あせり、考えすぎ、迷いなどのマイナス思考が頭の中で起き、いつもとは違う状態になります。そこから、信じられないミスが起き始め、ミスを繰り返すとマイナスの失敗イメージが頭の中に焼きつき、ついには恐怖感までもでてきます」そこで、これらの解決法として、「プラス思考」の心理的スキルをトレーニングするわけです。たとえば、「野球が好き」という気持ちがあれば、好きなことをするわけですから「練習も好き」だし、「練習や試合が楽しいし面白い」と感じることは当たり前です。しかし、これができない。試合で負ければ、すぐ落ち込み、ミスをしても落ち込む、考えてください!試合で負けて、ミスをしてなぜ落ち込まなければならないのですか?ルールブックに書いてありますか?コーチは落ち込めと指導していますか?この単純な考え方(哲学)に気づいてほしいのです。あなたが気づいたならプラス思考のトレーニングがスタートできます。
【連載19】プラス思考・ポジティブシンキング(2)
前回は、プラス思考の基本をお話しました。好きなスポーツが、練習が、試合が、面白くないし楽しめない、これほど矛盾したことはないはずなのに、うまくいかない。選手は、監督が怒れば、「監督は、俺のことを認めて、ここを直せばおまえはもっとうまくなるよ」と言ってくれていると感謝する気持ちになれない。ミスをすれば「良かった、ミスをしたおかげで自分の欠点が見つかった」、試合で負けて「負けたおかげで、自分の修正するところがわかった。いい経験をした」となぜ考えられないのでしょうか?監督は、ミスをした選手を、また試合で負けたチームに対して「なぜ怒るのでしょうか?」監督は、「俺の指導法が間違っていた、足らない点があった、アドバイスが選手に伝わっていなかった、この試合で反省点が見つかった、本当に良かった」と考えられないのでしょうか?この考え方ができれば、プラス思考になれたと言えます。なぜ、監督は選手の責任にし、選手は監督の責任にするのでしょうか?「あいつがこうしていれば、こうしてくれれば」、「監督が、こんな指示をしたから、怒るから・・」など他人の責任にしたり、不平や不満を持つ人は、マイナス思考の人間だと言えます。他人は、コントロールできないものです。また、自然(天気・温度)や道具、またグランドコンディションなどは、あなたがどうしょうもできないコントロールできないものです。あなたがコントロールできないことを考えたり、不平や不満を言っても無駄なことだし、無駄な時間を費やし、自分がますます泥沼にはまり込み、自分で自分の首をしめているようなものです。他人、自然、道具、施設など自分のコントロールできないものに惑わされずに、「今の環境や状況で自分ができるベストのことをしましょう」というのがプラス思考の基本的な考え方です。1日24時間をプラス思考で過ごすことが、プラス思考のトレーニングとなり、あなたの生活やスポーツをより楽しいものにしてくれるでしょう。これはスポーツ以外でも活用できるすばらしい心理的スキルです。
【連載20】まとめ
この連載も今回で最後となりました。残念ながら、メンタル面強化の何百分の1しか紹介できなかったことは心残りですが、このような方法があると言うことを理解していただき、宮崎の国体チームや宮崎のスポーツ界全体の競技力向上に少しでも参考になったならうれしく思います。それでは、最後にまとめてみましょう。
メンタルトレーニングとは、競技力向上を目的に、メンタル面を強化して選手の上達と実力発揮をさせようというものです。英語では「心理的スキルトレーニング」といい、次のような基本的な「心理的スキル」をトレーニングするという考え方です。
➀やる気を出すための「目標設定」や「メンタルプラン」、➁試合の場面でいつもの実力を発揮するためのセルフコントロールをするための「リラクゼーション(気持を静める)」や「サイキングアップ(気分を乗せる)」、➂新しいテクニックを身に付けたり、身に付けたテクニックをうまく発揮するための「イメージトレーング」、➃集中して質の高い練習をしたり、試合で良いプレーをするために必要な「集中力」、➄強気で自信を持って試合に臨むために必要な「プラス思考」、➅試合中の感情をコントロールし、集中力を回復する「セルフトーク(自己会話・自己暗示)」、➆試合で勝つ可能性を高める「心理的準備」(心理的コンディショニングも含む)以上をパッケージ化したプログラムで、より効果を高め、メンタル面の準備や強化(トレーニング)をするという考え方です。
この連載の依頼をいただいたきっかけは、宮崎第一高校空手部がメンタル面強化を始め、3年で全国大会5回優勝という成果を取材されたことからです。すでに宮崎のチームがメンタル面強化でその実績をあげていることを理解していただき、海外では、当たり前のこのトレーニングも、日本では10−20年単位で遅れています。宮崎の指導者達が、スポーツ心理学の背景のある科学的なトレーニングに興味を示してもらえればうれしく思います。また宮崎出身者として、国体チームのさらなる健闘を祈ります。
参考文献:今すぐ使えるメンタルトレーニング・明日から使えるメンタルトレーニング・大リーグのメンタルトレーニング・トップレベルのメンタルトレーニング・ベースボールクリニックで野球選手のメンタルトレーニングを連載中、実践メンタルトレーニングビデオ(ベースボールマガジン社)、サッカー選手のためのメンタルトレーニング(TBSブリタニカ)、