この連載は、07年11月15日より08年1月24日まで、聖教新聞に記載されたものです!
大舞台で力を発揮する:スポーツ心理学の観点から
【連載1】試合で勝つためのスポーツ科学
みなさんの生活の中で、大舞台で力を発揮する重要な出来事はありませんか?たとえば、受験、仕事の商談、ピアノの発表会、音楽のコンクール、そしてスポーツの試合などです。しかし、このようなみなさんにとって重要な大舞台で、自分の力をどのように発揮できていますか?スポーツで言えば、あがって負けた、プレッシャーでいつものプレーができなかったなどは経験ありませんか。高校野球では、「甲子園の魔物にやられた」などよく聞く話です。ここでは、10回の連載の中で、大舞台で力を発揮するための準備や強化について、スポーツ心理学のメンタルトレーニングという観点からお話をしていくことにします。
最近の競技スポーツは、試合で勝つとか上達することを目的として、「スポーツ科学」が盛んに応用されるようになってきました。たとえば、スポーツ医学、バイオメカニクス、スポーツ方法学、運動生理学、そしてスポーツ心理学などの学問の応用などのことです。オリンピックなどの大舞台では、各国がしのぎを削って、スポーツ科学を導入し、メダル獲得に必死になっています。そのようは背景の中で、日本はオリンピックのメダル獲得数からいっても、けっして強くないということはみなさんも知ってのとおりです。最近では、TVにおいても「女子バレーボールが世界バレーで3位に入り、メダルを獲得しなければオリンピックに出場できない」という報道がされています。このようにオリンピックに出場することさえ難しい状況もあります。最近は、日本でも国立スポーツ科学センターやナショナルトレーニングセンターなどが作られ、日本のスポーツの国際的な力の発揮に貢献しています。このように世界で勝つには、スポーツ科学を導入することが重要だと認識されるようになってきました。
一方、スポーツで勝つためには、毎日の練習で「心技体」と言われる面のバランスのよいトレーニングや強化が必要だと考えられます。しかし、日本のスポーツ界では、練習に費やす時間は「技体心」の順番であり、技術や体力に関するトレーニングや強化が練習時間のほとんどを占めていることも事実です。スポーツの試合で勝つには、技術や体力のトレーニングはもちろんのこと、毎日の練習で身につけた技術や体力を、本番で発揮するためのトレーニングや強化または準備が必要です。
そこで、ここでは、大舞台(本番)で力を発揮するためのトレーニングや強化方法を、連載10回にわたり紹介することにします。この内容は、スポーツ心理学というスポーツ科学を背景としたメンタル面強化や実力発揮の方法です。同時に、この連載を通して、読者のみなさんが自分の生活や仕事、または受験などにおいても応用や活用ができることを紹介したいと思います。たとえば、試合で勝つことを、ビジネス・受験で成功するなどと置き換えて欲しいと考えています。
【連載2】 心・技・体
みなさんは、スポーツにおける「心技体」とは、どんなことを意味すると思いますか?この連載における「心」は、メンタル面・心理面・精神力・気持ちの強さ・ハートが強いなどの意味で使います。また、「技」は、技術(テクニック)・技能(スキル)・作戦・戦術などとしましょう。さらに、「体」は、体力・身体・筋力・体格・コンディショニングなどです。そこで、この心技体のバランスを考えた強化をすればどうなると思いますか?
第1回でも述べたように、日本のスポーツ界において、「技・体」の指導や練習は、かなりの時間を費やしています。しかし、スポーツ先進諸国と言われる諸外国と比較した時、日本の選手の方が練習時間は長いのに、オリンピックなどでは勝てないのです。例えば、最近までオリンピックでは、アメリカが約100個前後のメダルを獲得、日本は10数個しか獲得していなかった事実をご存知でしょうか?練習時間の短い国がなぜ、これほどまでにメダルを獲得しているのでしょうか?そこには、オリンピックトレーニングセンターなどを中心としたスポーツ科学の応用があると言われています。ただ、日本でも前回のアテネオリンピックでは、文部科学省や国立スポーツ科学センターなどの取り組みなどもあって、メダルが倍増しています。
それでは、なぜスポーツ科学を取り入れるとなぜ試合で勝てるようになるのでしょうか?その答えに、「質の高い練習で選手がより早く合理的に上達する」とか「試合で勝つ可能性を高める方法がある」ということが考えられます。短い時間でより効率的に効果を出す、試合で勝つ可能性を追求した方法を使うなどの合理的・論理的な考えが、試合で勝つということにつながるのだと考えられます。これがみなさんの生活ではいかがでしょうか?たとえば、@受験だと、質の高い毎日のいい勉強をすれば、学力がつくし、その結果は入試での成功につながると思いませんか?Aビジネスだと、やる気を持ちしっかりした仕事をすれば労働生産力はあがるし、結果として個人の成功や会社としてのお金儲け(ビジネス)での成功が見えてくるでしょう。
日本では、伝統的に練習を多くやればうまくなるという考え方がされてきました。選手にきつい練習をさせ、追い込めば、また練習を多くやれば精神力はつくなどという古い考え方が科学的なメンタル面のトレーニングを、海外より遅れさせたのです。受験もたくさん勉強すれば合格する、仕事も多くの時間働けば儲かるなどと思われがちです。確かに、スポーツにおいては、昔からやられた方法でもメンタル面が強くなった選手もいたでしょうが、落ちこぼれていった選手の方が多かったのも事実です。
このようなことから、質の高い(内容の濃い・中身のある)練習(仕事・受験勉強)をすれば、もっと成功の可能性が高まるはずです。
【連載3】メンタル面強化の歴史的背景
メンタル面を科学的にトレーニングするという考え方は、1950年代に旧ソビエトが社会主義国家のもと、オリンピックで勝て(メダルを獲得)という命令が下り、多くの研究者やスポーツ関係者が、勝つための方法を見つけ出したことからだという報告があります。つまり、オリンピックで勝つという目的のもとに、メンタル面強化のトレーニングが研究され、オリンピックの大舞台で応用し、実践と研究を繰り返し、より効果的なメンタルトレーニングというものができました。
世界では、1976年のモントリオールオリンピックでの旧ソビエトや旧東ドイツの素晴らしい成果を見て、アメリカなどの西洋諸国もメンタル面強化に取り組み始めました。1984年のロサンゼルスオリンピックでは、アメリカが多くのチームにメンタルトレーニングを導入し、素晴らしい成果を挙げたことが、日本にもメンタルトレーニングが輸入されるきっかけになりました。日本体育協会の心理班による「メンタルマネジメント研究」プロジェクトが1985年に始まり、日本におけるメンタル面強化の研究や実践が始まりました。しかし当時は、日本のスポーツ界にあるいろんな問題から、メンタル面強化の考え方が受け入れられませんでした。
日本では「根性・精神力・気合・スパルタ教育」などの言葉が示すように、コーチたちは、メンタル面の重要性は認識していたにもかかわらず、どうすればメンタル面強化ができるのかが分からず、昔ながらの、練習を多くするとか、追い込む練習、スパルタ練習が精神面強化の方法だと受け取られていました。また、メンタル面が弱いという責任を選手に押しつけ、コーチの「おまえは精神力がない、どうして力を発揮できないんだ、もっと集中しろ、気合を入れろ、やる気を出せ、根性をだせ」という言葉だけの指示、または限界まで追い込む練習が当たり前でした。
しかし、最近では、スポーツ心理学という学問(スポーツ科学)を背景とした、より合理的・系統的・段階的なメンタル面強化の方法が普及してきました。特に、先に述べたメンタルマネジメントプロジェクトが約17年継続され、日本のスポーツ界に少しずつ普及していったのです。
一方、世界では、スポーツから始まったメンタルトレーニングが、新しい歩みを始めました。それは、@スポーツだけでなく、Aビジネス、B教育、C健康、Dパフォーミングアーツ(ステージパフォーマンス)という分野にまで応用がされるようになったのです。ビジネスならば、労働者のモチベーション向上、人間関係改善のコミュニケーションスキル、ミスからの気持ちの切り替え、ストレス解消など。また教育ならば、受験への応用や教師たちの指導など。どの分野においても、このメンタルトレーニングが応用・活用されるようになっていきました。
【連載4】なぜ、実力を発揮できないのか?
スポーツの選手やコーチのみなさんは、「うちのチームのほうが強いのになぜ負けたのか?」「あんなチームにどうして負けたのだろうか?」「どうして実力を発揮できないのだろうか?」「せっかく、技術や体力もついたのに、大切な試合であがって負けた」などの経験はありませんか。毎日の練習で「技・体」の面の強化はできて、うまくなったし強くなった、しかし大事な試合であがって(プレッシャー)負けたなど、メンタル面の理由で負けたということは、心・技・体の「心」が弱いから負けたということに気づきましたか。
一般的には、チームや選手が「弱いとか強い」という場合に、ほとんどの人々が「技・体」の面を見て、弱い・強いと決めつけているように感じます。しかし、誰が見ても負けるはずのないチームや選手に負けることは、スポーツの世界では当たり前のように起こります。優勝候補が勝てない。弱いといわれたチームが奇跡の勝利を勝ち取ることはよく耳にすることです。そのようなことが起こった後の選手のコメントには、「調子が悪かった・気持ちが足りませんでした・精神力が原因です、どうして負けたかわかりません・僕らの方が強いんですが、試合では負けました」などと、「言い訳」のコメントが聞こえてきます。
しかし、試合で負けたということは「弱かった」のです。ただどこが弱かったのかを突き詰めると、「心(メンタル面)」が弱かったことに気づくはずです。つまり、強いとは「心・技・体」すべてのバランスがあってこそ強いのであり、このバランスが取れていなくて試合で負ける場合は、やはり「弱い」のです。この弱さを克服するには、練習するしかありません。しかし、「技・体」の練習だけをしても、練習の量を増やしても、また同じことの繰り返しです。そこで、「心」の練習や準備、つまりメンタル面強化のトレーニングをすることが、強いチームや選手になる大切な準備になります。
ここで受験生が入試で失敗したとしたら、何が原因でしょうか?もちろん、勉強不足(連取不足)もあるでしょう。しかし、しっかりと勉強したのに失敗するとしたら、緊張などのプレッシャーで集中できなかった、頭が真っ白になった、原因不明の下痢や腹痛があった、まわりの人が頭よさそうに見え自信がなくなったなども考えられませんか?これは、まさに「心(メンタル面)」の問題であり、大舞台で力を発揮することに対して、何かが邪魔をしたのです。その邪魔をした何かが、見えない重圧、不安・心配 見えないかなしばりなどといわれるプレッシャーでもあるのです。
そこで、この実力発揮の邪魔をするプレッシャーなどの心理的問題に対処(準備・強化・トレーニング)をする方法が、「メンタルトレーニング」というものです。次回からは、具体的なメンタルトレーニングを紹介していくことにします。
【連載5】成功する(一流)選手とは?
スポーツ心理学の研究では、1流選手と1流になれない選手の違いを分析し、1流選手はなぜ成功したのかを詳しく調べてみました。そうすると面白いことがわかりました。
たとえば:
(1)1流選手ほど、大きな夢を持ち、その夢を達成するためのプランを立て、そのプランを実行し、夢を達成するための努力をしているのです。つまり、自分のやりたいことややるべきことを理解して毎日の練習や生活を過ごしていたのです。このことは、自分自身で「やる気を高める」ことができていることになり、他の選手と同じ3時間の練習(勉強・仕事)が、やる気のある、目標やプランを持った「質の高い練習(勉強・仕事)」になっていたのです。もっと詳しく言えば、スポーツ選手が引退したあとのこと(キャリアトランジション)、また長期目標・中期目標・短期目標さらに現実的で達成可能な目標などを設定し、その目標を達成するためのプラン(プロセス目標)をも設定し、それを実行する。また練習日誌をつけ、今日の練習の反省や修正をし、明日はこうすればもっとうまくなるということをやります。この一連の目標設定は、やる気を高めるトレーニングの一環として位置づけ、自分のやるべきことややりたいことの優先順位を決定することに効果的です。
(2)試合になればほとんどの選手が緊張やプレッシャーを感じます。1流選手は、自分の気持ちをコントロールし、緊張やプレッシャーを味方につける方法を知っていました。つまり、一流選手が多く用いるプレッシャーを味方にする方法をトレーニングとして行うのです。これも大舞台で力を発揮するための準備という考え方です。
(3)1流選手ほど、練習や試合に対する心の準備として、イメージを活用して、より鮮明でリアルなイメージトレーニングをしていたのです。つまり、スポーツのみならず受験や仕事などでの成功の可能性を高める準備をしているということです。
(4)1流選手は、試合の大事な場面での集中力の高め方を知っています。また、練習においても集中してトレーニングをすることができるために「質の高い・中味の濃い練習」をすることができます。つまり、人よりうまくなるコツ、人より試合でいいプレーやいい結果を出すコツを知っているわけです。また受験勉強や仕事で集中すれば、質の高いいい勉強や労働(仕事)ができると思いませんか?
(5)1流選手ほど、「素直だ」という話しを良く聞きます。これは、彼らが「プラス思考(ポジティブシンキング)」であるために、コーチや人の言うことを良く聞き、それをアドバイスにして、自分をより高めていることを意味します。受験で成功する人や仕事のできる人など、世の中で成功する人は、何事も物事をプラス思考で考えるために、素直に人の言葉に耳を傾け、役に立つ情報を集め、それをうまく活用していると考えられます。つまり、できない理由を考えるより、できる理由を捜すほうが前向きだということです。
この続きは次回に説明しましょう。
【連載6】成功する選手が使う心理的スキルとは?
前回の続きとして、1流選手がよく使う心理的スキルを紹介しましょう。
(6)1流選手ほど、自分や人に対する言葉や声がけがプラス方向なのです。これが自分への良い暗示となり、気持ちの切り替えがうまくいき、それが良いプレーや結果につながります。これを専門用語で「セルフトーク」と言い、「よし!」「まだまだ!」「いける!」などの言葉を考えたり、口に出すことで、気持ちの切り替えやプラス思考で行動をすることができます。1日24時間をポジティブな考えや言葉づかいをすれば、これがトレーニングとなり、スポーツの試合や受験、また仕事での商談など、大切な場面で自然(無意識)にポジティブな考え方やコミュニケーションができるでしょう。つまり、スポーツでは成功の可能性が高まるということです。みなさんの生活の中で、ここ一番の大舞台で成功するには、セルフトークという心理的スキルを使ってみてはいかがでしょうか。
(7)スポーツにおいて、団体競技をするときに、チームワークが重要な要因になります。みなさんは、学校や職場で、大勢の人と協力をして勉強や仕事をしていると思います。スポーツでは、うまい人や下手な人がいても、みんなで弱点をカバーしながら、協力して試合で勝とうとします。またどんな職場でも、仕事ができる人やできない人がいても、みんなで協力してビジネスを成功させようと努力しています。このような人間関係やチームワークは、社会において重要な要因になります。そこで、メンタルトレーニングでは、このような人間関係をよくしたり、チームワークを高めるためのトレーニング(準備・強化)をします。ここでよく使われるのが、コミュニケーションスキルです。たとえば、相手の話をよく聞くという「傾聴のスキル(聞く耳を持つ)」、自分の考えをうまく伝えるスキル、みんなの意見をうまくまとめるリーダーシップなどです。このように、みなさんの人間関係をうまくいかせるためのトレーニングをするという考えはいかがですか。
(8)われわれは、受験、仕事、音楽のコンクール、試合など、自分のやってきた努力の成果を試す大舞台に直面することがあります。ここで勝負をしなければならない大舞台で、何をどうすれば成功する可能性が高まるのでしょうか。その答えは簡単です。「準備」をしておけばいいのです。その準備をスポーツのメンタルトレーニングでは、試合に対する心理的準備という表現をします。つまり、あなたの目標に対して、成功するための準備を徹底してやりましょうということなのです。
このようにスポーツの1流選手ほど試用している心理的スキルは、彼らが試合で勝つ(成功)するために自然(無意識)に、また試行錯誤して見つけたものです。そこで、1流選手のやっていることをまねしましょう。1流選手になるコツを学び、成功するパターンを作りましょうということがメンタルトレーニングです。
【連載7】やる気を高める方法(1)
前回まで、メンタルトレーニングで実施する心理的スキルの紹介をしました。今回は、私たちがスポーツ選手のやる気を高める目的の心理的スキルを「目標設定」を具体的に紹介します。この目標設定は、受験生やビジネスマンにも十分活用できるものですから、ぜひ試して欲しいと思います。
ここでは、自分の夢ややりたいことを目標として決めることです。また自分の人生ややりたいことをイメージトレーニングとして実施します。ここでは、紙面の関係上すべてを紹介することはできませんので、ほんの一部を簡単に紹介します。次の目標を紙に書いてみましょう。
(1)人生における夢・50年後の目標・30年後の目標・10年後・5年後・3年後・2年後・1年後・半年後・今月・今週・今日・今の目標を順番に書いてください。
(2)次に、あなたが今やっている「スポーツ・仕事・趣味など」の夢・50年後の目標・30年後の目標・10年後・5年後・3年後・2年後・1年後・半年後・今月・今週・今日・今の目標を順番に書いてください。たぶん、多くの人が「結果目標」を書くと思います。
(3)今度は、その結果目標を見ながら「プロセス目標」(その結果を達成するためのプラン)を書いてみましょう。例えば、人生の夢が「金持ちになりたい」と書いたとしたら、「いくらぐらいの金持ち」「いつまでに」「どうやってその金額をもうけるのか」「それが現実的か非現実的か」を書いてください。
どうでしたか?スムーズにかけましたか?たぶん、多くの人は、自分がいかにいい加減かに気づき、このままではやばいと考えたと思います。この「気づき」がチャンスです。「このままではだめだ、明確な目標を立て、それを実行しよう!」という気持ちになったとしたら、この目標設定は成功です。スポーツで言えば、一流選手ほど早く明確にかけますが、三流選手は書けない、考えないと書けない、時間がかかる傾向があります。つまり、一流選手は、このようなことは明確に頭の中にあり、何を自分がすべきか理解しているために、やるべきことの優先順位が決まっているために、迷いや悩みがなく行動ができるのです。
たとえば、自分の夢が「オリンピックの金メダル獲得」ならば、何年後のオリンピックで金メダルを取るのかを決め、その1年前までには世界選手権で上位(メダル)、2年前までには日本代表・日本チャンピオン、3年前までには日本で上位、4年前までには高校チャンピオンでジュニア日本代表、今年中に全国高校総体(インターハイ)上位入賞など、夢を達成させるために、やるべきことが見えてくるはずです。
このように段階的に目標やプランを立てていき、モチベーション(やる気)を高めるのが「目標設定」という心理的スキルです。
【連載8】モチベーション(やる気)を高める方法(2)
前回に引き続き、やる気を高める心理的スキルの目標設定の具体的な方法を紹介します。前回は、人生という「長期での目標」を考え、夢をどうして達成するかのプランまでを立てました。つまり、人生のイメージトレーニングを体験してもらいました。今回は、「中期の目標」や「短期の目標」として、この1年を、今月、今週、今日を、どのように過ごす(トレーニングする)のかを紙に書いて見ましょう。
(1)最初に、今年の一番大切な試合(イベント・試験)が、何月にあるのかを確認してください。それでは、その試合(イベント・試験)までのあなたのチーム(会社・学校)のトレーニング(仕事・勉強)スケジュールを書いてください。次に、そのチームとしてのトレーニングスケジュールを見ながら、あなた自身の「秘密」のトレーニング(根回しや準備・受験勉強)スケジュールを書いてください。この秘密のトレーニングとは、人とは違うあなただけの特別なトレーニングです。つまり、これをやれば自信が持てるというものです。
人の見ていないところで、あなたはどんな努力(秘密のトレーニング)をしていますか、またこれからやるべきですか、やりたいですか? これも具体的に、今月はこれとこれをする、来月はこれ、その次の月はこれをやる、そうすればこれだけうまくなり、今年の大事な試合(仕事・受験)では、これくらい勝つ(成功する)可能性をたかめることができると「ある程度の計算」ができるようにするのです。
(2)次に、今週のスケジュールを紙に書いて見ましょう。今週、あなたは何をしたいのですか、何をしたらどうなるのですか? 今週、1週間でどれだけうまくなれますか? 毎日のスケジュールを具体的に書いて、チームでの練習と自分の秘密の練習をうまく統合して、練習の質を2倍3倍にして、上達も2倍3倍になれば、ますます試合(仕事・受験)で勝つ(成功する)可能性が高まると思いませんか?
最後に、毎日の練習日誌をつけることで、あなたの目標への達成度を毎日確認しましょう。練習日誌は、練習への「予習・復習」となり、ひとつのイメージトレーニングです。今日の反省と明日やるべきことをイメージしながら書くことで、練習へのやる気や質を高めることができます。つまり、@今日の反省は「過去」を思い出すというイメージトレーニング、A反省を元に修正をする「現在」の活動を書いたり、身体を動かしながらするイメージトレーング、B明日の本番で何をどうすれば成功するかの「未来」へのイメージトレーニングをするのです。これは、スポーツにおける1流選手(成功する選手)にとって、必要なトレーニングが練習日誌だと理解してください。またこの練習日誌を毎日書いておけば、これが自分のデータベースとなり、試合で勝ったときは「こんな気持ちだった」、「こんな行動を取った」、「朝からこんな順番でこんなことをした」など、勝ちパターンを見つけるきっかけとなります。あなたも自分の成功パターンを、自分のデータベース(日誌)から見つけてみませんか?
【連載9】プレッシャーに打ち勝つ方法
スポーツにおいて、大事な試合で実力を発揮できない原因に「プレッシャー」があげられます。このプレッシャーをうまく処理する方法として「セルフコントロール」をする方法があります。セルフコントロールとは、プレッシャーのかかる場面などで、自分の気持ちや感情をうまくコントロール(処理・統制)する方法です。ここでは、「リラクセーション」という、気持を落ち着かせ、冷静な平常心でプレーができるようにする心理的スキルを紹介します。具体的には、(1)練習(勉強・仕事)や試合前に、静かなリラックスできる音楽を流します。これは音楽を使用した「呼吸法」と位置づけています。簡単に言えば、音楽に呼吸を合わせる(リズムを取る・たぶん音楽を聴くだけで自然にリズムに合わせた呼吸になります)(2)呼吸と手の動作をコントロールする目的の呼吸法を行います。(3)漸進的筋弛緩法という、筋肉を緊張させてからリラックスへ持っていく方法を右手・左手・両手・右足・左足・両足・身体全身と順番に身体の各部をリラックさせ、同時に気持ちもリラックスさせ、集中力も高めます。(4)次に簡素化した自律訓練法を使い、「手が温かーい」とか「額が涼しい」などの言葉での自己暗示をかけながらリラックスへもっていく方法、(5)メディテーション(瞑想:横になり寝る)を約3分おこない、気持ちをリラックスすると同時に集中力を高めます。(6)最後は消去動作という簡単なストレッチや身体を動かし、目を覚まします。このリラクゼーションのプログラムを毎日の練習(勉強や仕事)の前に「練習前の心理的準備(集中力向上)」「メンタル面強化のトレーニング(リラックス法)」として実施します。ここでは詳しく紹介できませんので、ベースボールマガジン社からでている「高妻容一の実践メンタルトレーニング:初級・中級・応用編」のDVDや「今すぐ使えるメンタルトレーニング:選手用」という本を参考にしてください。
このプログラムでは、何をどうすればプレッシャーのかかる場面で、リラックスできるのかという方法を学び、また集中力を高め、それがいつでもどこでも使えるように、毎日の練習で「トレーニング」し、自分の気持ちをコントロールできるようにするものです。
加えて、サイキングアップというやる気がない、気持ちがのらない、燃えないときに気持ちをのせ、いい雰囲気、心理的にいい状態を作るプログラムもあります。これは、気持ちをノセル・やる気を高めるという目的の「心理的なウォーミングアップ」というものです。具体的には、軽快な音楽を使い、その音楽に合わせて身体を動かし心拍数を上げ、楽しいゲーム等をすることでやる気を高め、スポーツ(勉強・仕事)で最高のプレーができるように心の準備をする方法です。
つまり、自分がどのような心理状態のときに最高のプレーができるのかを理解し、準備をし、理想的心理(ゾーン・フロー・火事場の馬鹿力)状態を意図して作るのです。スポーツの一流選手は、このようなセルフコントロールがうまいために、コンスタントに試合で実力を発揮できると言われています。あなたも、仕事や勉強などで最高の心理状態を作り、質の高い仕事・勉強し、実力発揮のトレーニングや準備をしてみませんか?
【連載10】本番で実力を発揮するために
この連載も最終回となり、今回はいままでのまとめをしてみましょう。この連載では、スポーツ選手が使うメンタル面強化のメンタルトレーニングを紹介してきました。これは、自分がうまくなる(向上する)とか本番で実力を発揮することが目的のものです。今まで紹介してきた「心理的スキル」をトレーニング(強化・準備)して、自分のセルフコントロール能力を高めましょうというアイディアです。毎日の練習(勉強・仕事)の前に最高の気持ちの状態を作ることが、その日の練習の「質」を高めます。1日3時間の練習が、やる気のない、集中していない、なんとなくやらされている気持ちの練習と比べると、やる気のある練習は、何倍もの質や内容になることはみなさんも理解していただけると思います。これは受験勉強でも同じですし、会社の労働力を高める点でも同じだと思います。どうせやるなら、質の高い中身の濃い練習のほうがいいに決まっています。それが1年365日となれば、1年後の選手の上達、技術や体力の伸びは段違いなものになると思いませんか?つまり、セルフコントロールの方法を学び、それを毎日トレーニングとしてやれば、プレッシャーに打ち勝つだけでなく、競技力向上(勉強や仕事の向上)という点において大きな力となるはずです。
最後に、みなさんがいつでもどこでもすぐに使えるセルフコントロール(リラックス・やる気・集中・気持ちの切り替え・自信や余裕を持つ・楽しめる気持ちを持つ)の方法を紹介しましょう。たとえば、大リーグで活躍するイチロー選手は、ベンチからネクスト・バッターズ・サークルまで、いつも同じように歩いて、そこでの動作、打席までの歩き方から打席に入り、バットをぐるりと回す動作までを、打席で集中するために大切な時間、打つための重要な準備の時間だという表現をしています。これは、彼が最高能力(実力)を発揮するための心理状態へ入るための手順である、「パフォーマンス・ルーティーン」をしているのです。一流選手ほど、自分がコンスタントに実力を発揮するための「方法・手順・プログラム」を持っています。ただ、ある選手はそれを意識し、ある選手は無意識で、ある選手は何にも考えなく気にしないで自然にやっています。
あなたも何かを始める前に、特別なパターンのルーティーンをしていませんか?たとえば、メジャーリーグで活躍する松井選手は、打席に入る時は必ず「左足から入る」、バットを構えたとき「バットの絵柄を見る」などの些細な動作です。たぶんこれをやると「落ち着く」、「集中する」、「やる気が高まる」、「気持ちが切り替わる」という動作のことです。このような自分が自然に行っている動作を目的と意図を持ってやることで心の準備(セルフコントロール)をするのです。このときに「よし!」、「シャー!」、「できる!」、「次、次!」、「まだまだ!」などのセルフトークや成功イメージを加えれば、さらなる集中や気合が入る状態が簡単にできます。つまり、瞬間にプラス思考になり、今からやることへの心の準備をするのです。
いかがでしたか?あなたのメンタル面は強化できましたか? さあ今からが勝負です!