2008年4月現在、日本におけるメンタルトレーニングの事情を紹介します。このHPを立ち上げて9年以上がたちました。この9年間で、日本におけるメンタルトレーニングの動向もかなりの変化がありました。ここでは、日本における歴史的背景と2008年現在の最新情報を紹介しましょう。
1985年より本格的にスタートした日本のメンタルトレーニング研究
1985年に、日本オリンピック委員会(当時は、日本体育協会)の心理班による「スポーツ選手のメンタルマネージメント研究」が始まって以来、日本におけるメンタルトレーニングの普及がされるようになりました。2001年までの18年にもおよぶメンタルトレーニングに関する研究や調査、および実践などがこのプロジェクトチームによって実施されました。その結果は、日本体育協会スポーツ科学研究報告書に150以上の報告がされています。
同時に、このプロジェクトに関わった100名以上のスポーツ心理学者たちの努力もあって、日本のスポーツ界に「メンタルトレーニング」という言葉が普及していきました。
そのうちに「チームを勝たせたい、選手を伸ばしたい」という熱心な監督さんたちが、このメンタルトレーニングに興味を持ち、導入し、その成果をあげるようになりました。これが口コミやいろいろな雑誌等に取り上げられるようになり、普及に関しては加速度をましていきました。しかし、このプロジェクトの目的が研究を中心としたものであったため、一部の情報しかスポーツの現場に下りてこなかったという状況もありました。
1994年から現場での本格的な実践に対する取り組みがスタート
一方、1994年からスタートした「メンタルトレーニング・応用スポーツ心理学研究会」を中心に、スポーツ現場における普及がされるようになりました。この研究会は、競技力か向上のメンタル面強化を目的に情報提供や情報交換を中心とした活動をし、選手がいかにして上達するか、試合で勝つ可能性を高めることができるかを徹底して追求する方針で活動してきました。
特に、この研究会をスタートしたきっかけは国際メンタルトレーニング学会(ISMTE)の受け、日本での普及活動をするということでした。
たとえば、この研究会では、国際応用スポーツ心理学会(AAASP)、国際スポーツ心理学会(ISSP)、国際心理応用スポーツ学会(ICPAS)、国際スポーツ心理学会(ISSP)、日本体育学会・体育心理専門分科会、日本スポーツ心理学会、九州スポーツ心理学会などへ毎年(または4年に1回)会員が参加し、そこでの情報収集と情報交換をし、その情報を研究会へ還元することをしてきました。その研究会で提供された最新情報を現場のコーチや選手が実践し、その結果を持ち寄り、さらなる情報交換をするという「理論(研究)と現場(実践)」のキャッチボールを研究会の中心活動としてきました。
混乱する日本のメンタルトレーニング
このような背景のもと、日本におけるメンタルトレーニングは、@スポーツ心理学者、A現場のコーチや選手、Bスポーツ心理学の背景のない自称専門家や企業という構図で普及をしていきました。メンタルトレーニングがスポーツ心理学という学問を背景としているなかでも、スポーツ心理学者の中にも多くの違った分野を専門にする人々がいて、メンタルトレーニングとはいうもののいろんなアプローチがされるようになりました。また、スポーツ心理学会でもいろいろな議論がされ、混乱した時もありましたが、スポーツの現場では、競技力向上に効果が期待できるということから、導入をするコーチや選手が増えていきました。それと時を同じくして、スポーツ心理学の背景のない自称専門家やビジネスとして「メンタルトレーニング??」を指導する企業まで出てくるようになりました。
日本初の資格に関する制度発足
1996年に、国際メンタルトレーニング学会の国際資格制度が発足しました。この資格制度では、スェーデンのオレブロ大学のオリンピックサポートセンターで開催された現地講習会後に、通信教育で資格が取れるようになりました。しかし、この制度は、英語での講習や通信教育であるために日本人の多くが受講できないことから、この学会の日本支部会であるメンタルトレーニング・応用スポーツ心理学研究会が、日本語でできる研修と資格取得の案を理事会に提出した。これが理事会でも承認され日本における最初の資格の基準ができました。現在、メンタルトレーニング・応用スポーツ心理学研究会と東海大学スポーツサポートシステム:メンタルトレーニング部門では、基準にしたがい専門家育成の研修をしています。
日本スポーツ心理学会認定の資格制度
そこで、この混乱した日本のメンタルトレーニング事情をなんとかし、日本におけるレベルの向上を目的として、「資格」を作る動きが出てきました。先ほど紹介した「メンタルトレーニング・応用スポーツ心理学研究会」が世界の流れの中でのメンタルトレーニングを追い求めているのに対して、日本スポーツ心理学会は、学会員の専門性を考慮して日本独特の資格制度を作ることになりました。それは、「メンタルトレーニング」という言葉を、広い意味で解釈し、心理的スキルトレーニングだけでなく、カウンセリングや臨床スポーツ心理学、メンタルヘルス、研究や教育という分野も含めた資格制度を作り上げました。もちろん、この資格制度の設立には、国際応用スポーツ心理学会の資格登録制度などが参考にされました。
資格認定者リストの配布
現在は、各競技団体、各プロチーム、各県などのスポーツ組織などへ、資格保持者の名簿が配られ、メンタルトレーニングを導入するには、専門家を利用してくださいというよな趣旨で活動が行われています。また、ここ3年のスポーツ心理学会の動向も現場でのメンタルトレーニングに関して、かなり積極的になりました。
しかし、2008年までに、100名以上の有資格者がでているにもかかわらず、現場のニーズに応えられるしっかりとしたメンタルトレーニングを指導できる専門家が少ないという問題があります。この資格を取得した専門家には、下記のような専門性があることを理解してください。
(1)競技力向上を目的としたメンタルトレーニングを指導する専門家(現場での実践者)
(2)カウンセリングや臨床スポーツ心理学、メンタルヘルスからのアプローチをする専門家
(3)研究や教育を目的に活動する専門家(研究者)
資格認定研修会(資格認定員会主催)
現在、日本スポーツ心理学会の研修制度(年2回程度)しか研修をする機会がないという現状もあります。また、ここでの研修内容も実践的なものというより、知識的な内容のものが多く、さらに広い解釈でのメンタルトレーニングという考えのため、上記の3つの専門分野を顧慮した研修が行われています。
現場の実践を中心に活動してきた「メンタルトレーニング・応用スポーツ心理学研究会」
一方、本研究会では、1994年より、現場での競技力向上を目的にメンタルトレーニングの指導や心理的サポートを実践してきたため、研究会独自のプログラムを作成し、現場での実践を重ねてきました。特に、現場のコーチや選手とのキャッチボール(情報交換)から、かなり実践的な(現場のニーズに応えられる)プログラムの洗練をしてきました。本研究会が関わった選手・の数は、コーチ・数万人を超えていると考えられます。全国各地で毎月開催されている研究会では、このプログラムにそった講習会が毎年開催され、その講習を受けた選手やコーチからのフィードバックも含めて盛んに現場での実践が行われています。
2008年度現在の活動
毎週開催の東海大学メンタルトレーニング・応用スポーツ心理学研究会
毎月開催の各地区研究会:関東・関西・静岡・栃木・福井・愛知・専門分科会(大阪)・長崎・秋田・中京大学
東海大学で構築された専門家育成システム
・体育学部競技スポーツ学科でのプログラム & 大学院体育学研究科でのプログラム
・東海大学スポーツサポートシステム:メンタルトレーニング部門での研修プログラム
・6000時間の現場研修やスポーツ心理学の学問的背景での理論武装
ある県(国体チーム)でのメンタルトレーニング導入
ある県でのメンタルトレーニングの専門家職員の配置
あるナショナルチームでの導入
スポーツメンタルトレーニング指導士会のスタート(資格保持者の組織の発足)
資格を取得した「指導士・指導士補」の資質の向上、情報提供を目的とした全国規模の研修会組織ができました。ここでは、毎年1回の全国大会と支部研究会の活動が始まりました。各支部は、下記の通りです。
@北海道・東北支部
A関東支部
B東海支部
C関西支部
D中国・四国支部
E九州支部
今までは、日本スポーツ心理学会(資格希望者)と日本体育学会(資格取得者)の年2回しか開催していなかった研修会が増え、資格を取得した専門家のレベルの向上が可能になりました。
第1回の指導士会の全国大会は、2006年8月26日・27日に国立スポーツ科学センターで
開催され、その後は、全国各部会で研修会が開催される予定です。
また、国立スポーツ科学センターでも「ナショナルチーム(全日本)やオリンピックチームに関わる「心理的サポートネットワーク」の構築が始まり、資格保持者が協力して、日本のスポーツ界に貢献するプロジェクトもスタートしました。
このような動向から、将来的には各県の国体チーム、各競技団体、さらにはプロや実業団チームでも資格を持った専門家が心理的サポートやメンタルトレーニングの指導を実施するようになると考えられます。このことは、混乱する日本のメンタルトレーング事情を改善し、資格を持たない自称専門家などを排除し、日本全体のレベルの向上が可能になると考えます。
2000年、日本スポーツ心理学会が認定する「メンタルトレーニング指導士・指導士補」の資格ができました。同時に、この資格を取るための研修会や単位取得の基準などができました。ここでは、簡単な紹介にとどめますが、詳しくは、日本スポーツ心理学会のHPを見て欲しいと思います。http://wwwsoc.nii.ac.jp/jssp2/
ここでは、平成13年4月1日に告知されました、日本スポーツ心理学会の「日本スポーツ心理学会資格認定委員会」のHPを引用させていただき、「スポーツメンタルトレーニング指導士認定制度」についての紹介をしたいと思います。
目的
スポーツ心理学会を通して、スポーツ選手や指導者を対象に競技力の向上やスポーツの普及に貢献し、スポーツ心理学の研究と実践の進歩と発展に資するとともに、競技力向上のための心理的スキルを中心にした指導や相談等を行う専門家の養成をはかるため、スポーツ心理学について一定の学識と技能を有する本学会会員に対し、日本スポーツ心理学会認定スポーツメンタルトレーニング指導士の称号を付与し、その資格の認定をする。
資格認定の条件
2種類の資格があり、それぞれ以下の条件を満たし、審査に合格する必要があります。
本学会の会員として引き続き2年以上在会していること(退会した場合は資格の更新ができない)。そして、原則として大学院でスポーツ心理学あるいは関連領域(体育・スポーツ科学、心理学など)を専攻し修士号を取得した人を対象とします。
(詳細は「資格申請の手引き」を参照してください)
スポーツメンタルトレーニング指導士
十分な実績とともに高度な学識と技能を有し、本資格の認定や認定講習会の講師を務めることができる資格。指導士補の資格を持つ者、学術上の業績25点以上、研修実績30点以上、指導実績100時間以上等。
スポーツメンタルトレーニング指導士補
競技力向上のための心理的スキルを中心にした指導や相談を行う専門的な学識と技能を有すると本学会が認めた資格。本学会の会員として2年以上在会していること。学術上の業績5点以上、研修実績10点以上、指導実績30時間以上、本学会の講習会の受講、スーパービジョン1回2時間以上を受けていること等。
認定の条件(概要)
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学術上業績
著書(単著) 5点
著書(分担) 2点
学術論文 3点
研究報告書 1点
学会発表 1点 |
研修実績
本講習会・研修会の講師 4点
本研修会参加 2点
本学会でのシンポ司会 2点
本学会でのシンポ・指定討論者 2点
本学会への参加(準ずるもの含む) 1点
その他の研修会への参加 1点
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認定までの概要
●認定条件T(書類審査)
申請書類を提出し、書類審査に合格する(書類審査に合格していない者は認定講習会の受講はできない)。
書類審査の内容は、履修単位、学術上の業績、研修実績、指導実績などです。「指導士補」と「指導士」はこの基準が異なります。
●認定条件U(認定講習会の受講とスーパービジョン)
その後、認定講習会を受講しスーパービジョンを受ける。これらに合格した者に認定証を送付する。
資格認定希望者は認定講習会は必ず受講しなければなりません。認定研修会は勉強会や研修実績となるもので、受講は自由です。
認定講習会および認定研修会
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毎年、日本スポーツ心理学会前日に認定研修会及び終了後に講習会、日本体育学会の前日に認定研修会を実施する場合が多いようです。
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学会に入会後、認定委員会事務局に資格認定書類、申請の手引きなど関連資料一式を請求し、必要事項を記入して、下記の資格認定委員会事務局に送付してください。
(ただし、資格申請書類等を請求するときは、その経費2,000円を郵便振替で振込み、そのコピーを同封してください)
事務局:書類請求先
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請求先
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〒152-8552 東京都目黒区大岡山2-12-1
東京工業大学 社会理工学研究科
資格認定委員会事務局
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経費振込先
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郵便振替払込口座番号 00110−6−133730
加入者名 日本スポーツ心理学会資格認定委員会
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問い合わせ
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tel&fax 03−5734−2288(石井源信)
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各専門家による専門性の違い 資格保持者の専門性の違い最近の現場でのニーズ
このように日本スポーツ心理学会では、資格制度を立ち上げ、2006年現在で84名の資格保持者がいます。しかし、資格保持者の中でも各専門分野の違いから下記のような専門性があり、その専門を中心とした活動をしていると考えられます。
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(1)競技力向上を目的としたメンタルトレーニングや心理的サポートをする専門家
(2)カウンセリング、臨床スポーツ心理学、メンタルヘルスからの心理的サポートをする 専門家
(3)研究や教育活動を中心とした活動や心理的サポートをする専門家
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そこで、専門家を依頼するには、その専門家の専門性を考えることも重要です。さらに、この資格取得者のほとんどが大学で教鞭をとるスポーツ心理学者であり、研究者・学者といわれている方々です。今後は、この方々が中心となり、現場で活躍できる専門家育成に貢献してほしいという希望があります。
(1)高校での普及
最近、高校のクラブを中心にしてメンタルトレーニングを導入するケースが増えています。これは、高校のクラブの監督さんたちが、「試合で勝ちたい、選手を上達させたい」という気持ちから、メンタル面強化を始めています。そのきっかけとなるのが、各県で開催されている指導者研修会があります。各都道府県では、国体監督・コーチ研修会、指定強化校監督研修会、県指導者研修会、若手指導者研修会などが毎年何回も開催されています。その研修の中で、メンタルトレーニングの講演や講習を取り上げることが多くなり、そこから興味を持ち、メンタル面強化を導入するケースが多いと考えられます。
このような研修会で、コーチのメンタルトレーニングを学んだ監督さんたちが、すぐに取り入れインターハイで優勝したり、県代表になれたりするケースが増えています。このようなケースから見てみると、「指導者が変わる」と選手は、いい方向に変わる傾向が大きいと考えます。
そこで、本研究会では、コーチ(指導者)のメンタルトレーニングプログラムを作成し、指導者が選手の心理面を考慮したコーチングを奨励しています。このコーチ用のプログラムは、専門分科会(コーチングプロジェクト)を中心として、現場(実践)と研究(理論)のキャッチボール(情報交換)をして洗練していきました。このプログラムに関しては、多くの指導者共感していただき、かなりの数の高校指導者たちが実践してくれています。また、その成果も多く報告されています。
最近は、各高校のチームの依頼により東海大学のメンタルトレーニングサポートスタッフが専属のメンタルトレーニングコーチとしてサポートをしながら、自分の研修を積んでいるケースが増えてきました。中には、鳥取県や岩手県の高校のチームに毎月1回サポートに出かけるスタッフもいます。
また高妻(東海大学)も、各高校のチームの依頼を受けて、講習会等の指導に年間数十回も出かける状況があります。その後は、学生サポートスタッフが関わり、より効果を高める方法が増えてきています。
毎年、5月の連休最後には、北海道地区で高校生数百名が集まり、メンタルトレーニング合宿も実施しています。また毎年1月に東海大学で開催される野球用講習会では、14-15チーム500名以上が受講し、3月のサッカー用講習会でも約200名が、7月終わりまたは8月最初の日曜日に大阪での講習会でも300名以上が毎年参加しています。
(2)プロ・実業団での普及
プロ野球やJリーグをはじめとするプロのチームや実業団のチームもメンタルトレーニングに興味を持ち始め、導入をし始めました。最近は、個人的に専門家の下でメンタルトレーニングを学ぶ選手も多いと聞いています。また、あるプロの団体は、新人研修会などでメンタルトレーニングを導入したり、シーズン前のキャンプなどで講習会を実施するところもあるようです。実業団のチームでも、種目によるメンタルトレーニング導入の差が大きいと感じています。
しかし、ここでもビジネスとしてメンタルトレーニングを指導する企業や自称専門家が入り込んでいる現状もあります。ただ、このことが悪いという意味ではなく、現場のニーズに答えられるしっかりとしたメンタルサポートや正しい情報を伝えてほしいという希望があります。なぜなら、現場は、効果があれば何でもいいという考えがあるからです。もし、大学で教鞭をとるスポーツ心理学者が理論的に素晴らしいことを指導しても、効果がなければ、現場としてはいらないということになるからです。これは、コーチングといっしょで専門家の指導方法(コーチングスキル)にも大きく関係してくると思います。ここで、理解して欲しいのは、知識だけを教えるのがメンタルトレーニングではないということで。あくまで心理的スキルを毎日トレーニングさせること基本として、そのスキルが向上して、その結果として効果が出るという考え方が基本となります。今後は、専門家が毎日の練習や試合に帯同して、選手のメンタル面でのサポートをするという考え方が現場で理解してもらうことが必要だと思います。
今後は、プロや実業団のチームに専属のメンタルトレーニングコーチが雇われて。心・技・体のバランスが取れた指導やトレーニングが行われることを強く望みます。そのためにも体育学部のある大学や大学院でスポーツ心理学を学び、学問的背景のあるメンタルトレーニングを学んだ専門家が指導する時代が来ると思います。
このためにも東海大学で構築した専門家育成システムが大きく貢献できるようになることを望んでいます。
本研究会でも依頼を受けて、多くの実業団チームやプロ選手にサポートをしている現状です。
(3)中学での普及
さて、現場での普及に関しては、残念ながら中学のチームへの導入はまだまだのようです。これは、高校の監督さんたちが一番熱心に勉強されたり、本気で勝ちたいという気持ちをお持ちのように感じます。中学の指導者は、情報に対して無頓着か今さら新しいものを導入するにはという姿勢が見られるように感じます。日本のスポーツレベルが向上するには、中学生の年代からメンタル面強化を取り入れて欲しいと思います。
しかし、ある県では、中学選抜チームにメンタルトレーニングを導入して以来、その県の多くのチームが実施するようになりました。同時に、中学・高校の指導者講習会まで開催し、中・高一環指導の中でもメンタル面強化が普及しています。また、ある県では、高校のチームの強化策の中で、地域の中学指導者も含めた指導者講習会を実施し一環強化の中でメンタルトレーニングの理解をしてもらっているところもあります。
最近は、中学の野球部からの依頼が多くなり、東海大学サポートスタッフが指導やサポートをするケースが増えています。
2005・2006年には、「中学サッカー小僧」、「中学バスケットボール小僧」などでも、メンタルトレーニングの話題を取り上げてくれるようになっています。
(4)小学生への普及
この年代では、指導者の興味しだいという現状かもしれません。サッカーに関しては、指導者の研修が盛んに行われているため、これからの普及が期待できます。野球やミニバスケットなど、多くのボランティアの方々が指導されているスポーツには、まだまだ経験的な指導や怒りまくるような指導がされていると聞きます。子供達のメンタル面:気持ちや感情も考慮した指導に興味を持っていただければという思いを強く感じます。ここでは、コーチへのメンタルトレーニングの普及が必要だと感じています。
ある県の小学ソフトボールチームがメンタルトレーニングを導入し、優勝した報告があり、これは指導者の努力が子ども達のメンタル面を向上させ、結果として優勝できたように感じました。
Jリーグアカデミーの指導者講習会では、何度か講習を実施したために、サッカーにおける小学生年代へのメンタルトレーニングも指導者のコーチングの中で活用されている状況です。
東海大学大学院を出て、ジャイアンツアカデミーという少年野球スクールにアシスタントコーチとして活動をしている卒業生がいます。彼は、小学生年代に、野球を指導しながらメンタル面強化のスキルも指導しています。このような各プロ球団の下部組織が興味を持ち、メンタルトレーニングを導入
してくれる傾向が見られるようになりました。
(5)大学チームでの普及
大学でのメンタルトレーニング普及も高校に比べるとさびしい現状があります。ここには、高校の指導者のほうが講習や勉強をする機会が多く、また熱心な指導者が多いことも考えられます。
大学の指導者の多くは、いい選手を集めて勝とうとする傾向が強く、選手を伸ばす指導があまり行われていないような感じもします。
大学生レベルでは、選手たちが10年前後の練習を続けてきて、自分のやり方が出来上がっているケースから、今までの経験を信じて、新しいことにチャレンジする気持ちが少ない選手も多いようです。また、高校のときの指導者の影響(怒る・罰を与える・管理する・教えすぎる指導)から、やる気をなくして、何もチャレンジしてみたいとかいう気持ちが起こらない選手も多いようです。このようなバーンアウト(燃え尽き症候群)気味の選手達のやる気や気持ちの切り替えをサポートすることが重要になると考えます。
しかし、近畿大学・東海大学・神奈川大学など授業の中で、メンタルトレーニングを実施しした(している)大学生選手は、自分の練習や試合でうまく活用し、その成果をあげていることが報告されています。
東海大学サポートスタッフは、多くの大学チームに対して心理的サポートを実施し、大学生年代にはどのようなサポートがベストなのかを実験・実証しています。
大学選抜(ユニバーシアード代表)サッカーチームがメンタルトレーニングを取り入れ、4回もの優勝(世界1)になったことは、有名な話です。
(6)国体チームでの普及
国体関係では、すでに20以上の県が指導者講習会や選手への直接指導も含めてメンタルトレーニングを導入しています。いくつかの県では、専属のメンタルトレーニングコーチを国体選手の指導につけようとしています。ここでも専門家育成が期待されています。
秋田国体では、秋田県チームが強力にメンタル面強化を実施しました。2008年からは、専属のメンタルトレーニングコーチが秋田県体育協会に配属されています。
(7)オリンピックチームでの普及
1985年より、JOCのプロジェクトでメンタルトレーニングを紹介してきましたが、アテネオリンピックでさえも正式に導入しているチームは、数チームとさびしい限りです。アメリカでは、ほとんどのチームが導入し、専属のスポーツ心理学者をつけている現状から比べると日本のオリンピックレベルでの遅れが目に付きます。ただ、国立スポーツ科学センター設立から、少しずつは普及してきているようです。しかし、オリンピックレベルを指導したりサポートできる専門家がいない現状も大きな問題だと思います。
オリンピックトレーニングセンターができても、専属のメンタルトレーニングスタッフがいない日本の現状から、本気でオリンピックの勝利を目指す情報や気持ちがないように感じられます。
アメリカでは、USOC(米国オリンピック委員会)主導で、メンタル面強化やメンタル面のケアが大がかりに行われています。また、オリンピックトレーニングセンターには、専属のスポーツ心理学者がおり、メンタル面強化のサポートをし、各チームには大学のスポーツ心理学者たちがついて4年の単位で、オリンピックの心理的サポートをしています.
世界各国もオリンピックトレーニングセンターを作り、そこに専属のメンタル面強化の専門家を配置しています。
国際応用スポーツ心理学会では、心理的サポートの専門家育成を認定された世界109の大学院で行っています。残念ながら、日本では、専門家育成のシステムを作り上げたところがありませんでした。そこで、東海大学では、2000年より、専門家育成のシステムの構築を始め、2003年より本格的にメンタルトレーニングの専門家育成をスタートさせました。ここでは、2006年度4月の段階における「東海大学のメンタルトレーニングの専門家育成システムの構築:現状と展望」を紹介しましょう。
現状
東海大学メンタルトレーニング部門は、2000年より準備を始め、東海大学スポーツサポートシステムとの融合を試みてきました。(サポートの5部門:トレーニング部門・メディカル部門・栄養サポート部門・科学的サポート部門・メンタルトレーニング部門)
ここ8年の準備期間では、
(1)トレーニングリーダー養成講座での講習
(2)毎週開催している東海大学メンタルトレーニング・応用スポーツ心理学研究会
(3)体育学部の授業
(4)大学院の授業
(5)メンタルトレーニング部門(勉強会が週4回)
(6)関東地区メンタルトレーニング・応用スポーツ心理学研究会(青山学院大学)
(7)静岡県メンタルトレーニング・応用スポーツ心理学研究会(翔洋高校)
心理的サポートしたチーム(学生の研修)
東海大学において、2000・2001・2002・2003・2004・2005・2006・2007・2008年まで、何らかの形式でメンタル面強化のサポートを実施したクラブは、サッカー部・野球部・柔道部・チアリーディング部・女子ラクロス部・水泳部・男子バスケットボールAチーム・男子バスケットボールBチーム・女子バスケットボール部・ラグビー部・女子テニス部・準硬式野球部・男子ライフセービング部・女子ライフセービング部・陸上競技部跳躍・陸上競技部長距離(1回の講習のみ)・空手部・弓道部・フィールドホッケー部・サッカーサークル・北海道東海大学野球部・女子体操部・陸上競技部投擲・男子ラクロス・九州東海大学各クラブなど約30クラブに及んでいる。これに付属高校のチームを加えるとかなりの数にのぼります。
最近は、学外の高校や中学のチームからのサポート依頼が多く、かなりの数のチームへのサポートを実施しています。
8年間の経過
@2001年度までは、高妻ゼミの学生による卒論(ゼミの卒業論文における学生メンタルコーチ研修でのメンタルサポート)を中心に活動を実施してきました。2002年度より、東海大学のサポートシステムの中にメンタルサポート部門ができ、ここでの活動も開始しました。
A2002年度から、メンタルサポートスタッフの募集を始め、2名の学生(1年生)が活動を開始しました。
B2003年度には、10名の1年生が集まり、トレーニングリーダー養成講座を受講させていると同時に、毎週1回のミーティングと毎週2回の勉強会、さらに毎週1回の研究会参加(メンタルトレーニング・応用スポーツ心理学研究会)などの活動(研修)を実施している。2003年度は、大学院生・研究生・ゼミ生・サポートスタッフが学内外のチームにサポート活動を実施しています。
C2004年度には、5名の1年生が集まり、ゼミ学生も含めると総勢40名のスタッフがいろいろなチームにメンタルトレーニングを指導したり、心理的サポートを実施しています。
D2005年度には、14名の1年生が集まり、ゼミ学生を含めると総勢60名となりました。
E2006年度には、20名の学生が集まり、総勢約80名の学生が研修をしています。
F2007年度には、全国規模のサポート活動が行われ、遠くは九州や東北まで毎月サポートに行く学生スタッフもでてきました。
G2008年度は、卒業生が、プロのチームに就職を決め、ようやく新しい風がふくようになりました。
今後の展望と問題点
2003年度より、メンタルトレーニング部門が本格的にサポート活動を始めたのですが、まだいくつかの問題点が残っています。
(1)サポートスタッフの教育(研修)システムを作り上げたが、まだ教育(研修)が必要なため、全員を各チームに貼り付けるまで至っていない。基本的に、1年目に基礎研修期間として、幅広くスポーツ科学を学び、メンタルトレーニングの基礎を学ぶようにしています。2年目から、希望のあるチームに学生メンタルトレーニングコーチとして心理的サポートを始めるようにしています。つまり、1000時間以上の研修をした後に、チームへのサポートを開始するシステムを構築しています。
(2)現在の問題点は、ゼミ生(サポートスタッフ)が卒業したりすると、自分たちで継続できないケースが多くなっている。今後は、サポートスタッフを増やし、教育(研修)活動を中心に実施していく必要があります。また継続して心理的サポートができるように学生メンタルトレーニングコーチの後継者育成をしていくことが必要です。2007年度からは、後がま制度を作り、継続してサポートができるようにしました。
(3)メンタルトレーニング指導士・指導士補という資格(日本スポーツ心理学会)ができたために、この資格を目標に教育(研修)と現場でのサポート活動をする必要があります。この資格取得には、最低、スポーツ心理学の大学院修士課程を修了することが条件なる規定があるために、2003年までの体育学部・体育学科:コーチングコース、2004年からは、体育学部の競技スポーツ学科:コーチ・トレーナーコースの学生をメンタルトレーニングスタッフとして募集し、大学院体育方法学講座への入学と修士号獲得までの6年間、そこでの教育(研修)が必要となり、スタッフ募集の段階で門が狭くなっている。しかし、東海大学でメンタルトレーニングを学びたいという受験生が増えてきています。
(4)メンタルトレーニング・応用スポーツ心理学研究会の内部基準である「300単位」基準の研修を義務付けています。これは、最低5年で100時間以上の研修が必要ですが、新しい専門家育成システムでは、「500単位」で、約4000時間、「1000単位」で、最低6000時間の研修が可能になります。日本スポーツ心理学会で義務付けている現場研修30時間の100倍以上の研修を目的にし、現場でのニーズに答えることのできる専門家育成を目指しています。
(5)現在、資格を取る為のシステムがようやく完成しつつあります。そこには、下記の10の柱を中心としてメンタルサポートスタッフの教育(研修・育成)を実施しています。
@教育スポーツセンターのトレーニングリーダー養成講座での講習
A大学・大学院での授業(スポーツ心理学・スポーツ心理学特講・コーチング心理学・応用スポーツ心理学特論・応用スポーツ心理学演習等)
B大学3年からのゼミで卒業論文としてまとめるための学生メンタルトレーニングコーチ研修
C勉強会(メンタルトレーニングスタッフの勉強会・東海大学メンタルトレーニング・応用スポーツ心理学研究会など毎週3回実施)
D関東地区メンタルトレーニング・応用スポーツ心理学研究会(毎月1回)での研修
E年に数回開催される2日集中講習会での研修
F大学院での修士論文としてまとめるための心理的サポート研修
G学部・大学院では、必ずどこかのチームに3−5年以上の帯同(毎日)をする
Hメンタルトレーニングスタッフは、日本スポーツ心理学会や日本体育学会・体育心理専門分科会への参加を義務付けています。
I大学院生は、必ず国際応用スポーツ心理学会への参加を義務付けています。
今後は、東海大学各クラブの要望があれば、すぐにメンタルトレーニングコーチの派遣、各チームのメンタル面に関するデータベース作りなどを展開していく予定です。最近は、学外からのメンタルサポートの依頼も多く、すでに学外からの依頼を受けて、活動している研究生や学生もいますが、今後の検討課題であります。最近は、学外の高校のクラブ等から、学生メンタルトレーニングコーチを派遣してもらえないかという依頼が多くなっています。
(6)大学院にてメンタルトレーニングを学びたいという質問をする方々が増えていますが、基本的に大学院2年間では、専門家育成は難しいと考えています。特に、心理学を専攻した方、スポーツをやっていたが体育学部ではない、就職しているが仕事をやめてでも勉強したいという方々の希望が増えていますが、本当に難しいと思います。現在では、大学1年生から大学院までの6年間を研修とすることを基本としています。
メンタルトレーニングプログラム
東海大学メンタルトレーニング部門では、選手用にメンタルトレーニングプログラムを作成し、このプログラムを実行すればかなりのレベルでメンタル面強化ができるようにしてあります。同時に、専門家を目指す人には、指導マヌュアルとして活用できるようにしてあります。最近は、コーチ用のプログラムや選手の父兄(親御)のプログラムも完成しました。
基本的なプログラムは、下記のように教科書と書き込み用紙がセットになっています。
(1) 初級編:
- 今すぐ使えるメンタルトレーニング:選手用(ベースボールマガジン社)
(2) 中級編:
- 大リーグのメンタルトレーニング(ベースボールマガジン社)
- 中級編書き込み用紙(他種目用)
- 野球選手用中級編書き込み用紙
- ソフトテニス用中級編書き込み用紙
- サッカー選手用中級編書き込み用紙
(3)上級編:
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トップレベルのメンタルトレーニング(ベースボールマガジン社)
- 上級編書き込み用紙
(4)コーチ編:
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今すぐ使えるメンタルトレーニング:コーチ用(ベースボールマガジン社)
(5)育成編:
- メンタルトレーニングサポートの専門家育成教科書(メンタルトレーニング部門内部出版)
(6)紹介編:
- サッカー選手のためのメンタルトレーニング(TBSブリタニカ)
(7)紹介編:
- 野球メンタルトレーニング(西東社)
- 選手用書き込み用紙
- コーチ用書き込み用紙
(8)ビデオ:
- 実践メンタルトレーニング(ベースボールマガジン社)
(9)ビデオ:
その他
(10)コーチ用:
明日から使えるメンタルトレーニング(ベースボールマガジン社)
感想用紙
(11)ビデオ:
野球における科学的トレーニング体系:メンタルトレーニング
(一ツ橋出版社:日本ビクター株式会社)
(12)ビデオ:
野球における科学的トレーニング体系:
イメージトレニング;ピッチング・守備編
(一ツ橋出版社:日本ビクター株式会社)
(13)ビデオ:
野球における科学的トレーニング体系:
イメージトレニング;バッティング・走塁編
(一ツ橋出版社:日本ビクター株式会社)
(14)育成編:
メンタルトレーニング・応用スポーツ心理学の実践
(メンタルトレーニング・応用スポーツ心理学研究会専門分科会内部出版)
(15)DVD:
トレーニングセミナー・今すぐ使えるメンタルトレーニング:初級編(ベースボールマガジン社)
(16)DVD:
高妻容一の実践メンタルトレーニング:初級編(ベースボールマガジン社)
(17)DVD:
高妻容一の実践メンタルトレーニング:中級編(ベースボールマガジン社)
(18)DVD:
高妻容一の実践メンタルトレーニング:応用編(ベースボールマガジン社)
(19)種目別編:
バスケットボール、サッカー、空手、ボクシング、ソフトテニス、ラグビー、チアリーディング用の種目別プログラムの作成もしています。
最後に
今回は、2008年3月現在のメンタルトレーニングの動向についてまとめてみました。
このHPをみられた方々の参考になれば幸いです。今日本では、「メンタルトレーナー」などという言葉が使われるなど混乱した状態があると強く感じています。世界的レベルでメンタルトレーニングを見た場合、メンタルトレーニングは、教育スポーツ心理学という分野で教育的アプローチ(指導)を使うことから、コーチングと同様に考えられています。つまり、トレーナーの仕事と役割が違うと考えられています。このように世界とは違う動向で日本のメンタルトレーニングは、発展をしつつあります。もちろん、日本は違うといってしまえば、何も言うことはありません。しかし、世界の動向から完全に遅れている日本のメンタルトレーニング事情を見るとき、少しでもいい方向に進んで欲しいと考えています。
今回このような日本の動向をHPに書きました理由は、混乱する日本のメンタルトレーニング事情をどうにかしたいという思いがあります。「メンタルトレーニング」という言葉でウエブサイトを引いていただければ、多くの方々のHPを見つけることができると思います。法律で何も規制できない日本の現状を見るとき、誰が何をしてもいいという現状の中で、このHPを見ていただいた人々やメンタルトレーニングに興味を持っていただいた方々が、見る目を養って欲しいという思いもあります。
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